スキな事、語っていますか?
スキな事、語っていますか?
私は今から語らせていただきます。
私は熱しやすく冷めやすいハマりやすいタイプです。
先日ふとこれまで10年でハマったものを振り返るに機会がありました。あれも好きになったな、これも好きだったなと。
一人で楽しむことが常です。語り合うことはそこまで多くはありませんが、まぁオタク語りするのは楽しいことこの上ない。
加えてオタク特有の早口でスキ語りをされる方を見つけるとなんだか暖かい気持ちになります。
っぱ、スキなこと語るの楽しいっ!
モチは餅屋。有識者に聞く知識は新たな知識と出会えて、まぁ面白いものですしね。
さて、前置きはこの辺までにしておいて。
今回紹介するミステリは、アイザック・アシモフの「黒後家蜘蛛の会」。
こちらの作品は黒後家蜘蛛の会(ブラックウィドワーズ)という名を冠する食事会にて会話のみで繰り広げられる安楽椅子形式の短編ミステリとなっております。
物語の形式としては、月に一回各分野に精通する6人のメンバーが集い合い、持ち回りでゲストを一人呼ぶ。食事をひとしきり楽しんだ後、ゲストへの尋問が始まる。ここで舞い込んでくる不思議な出来事だったり本当に事件だったりに談論風発させる。が、話しの収着が袋小路へ行き当たりそうな頃合いに給仕ヘンリーが満を持して登場し、解決へと導いていくという作品展開が繰り広げられています。
我が推し、給仕ヘンリー。
彼は60代ではあるがシワひとつない顔立ち、多くの知識を読書から得(なぜなのかレストランに都合良く多くの書物がある)、常に穏やかであり一片の隙もない給仕を遂行します。問題解決時に見られる思考の切れ味は見事なほど快刀乱麻を断つのです。
そんな品行方正、謙虚不遜、完全無欠な彼が興奮を露わにする話しがあります。
それが『終局的犯罪』。
この回、シャーロック・ホームズ愛好家(通称シャーロキアン)の集まり「ベイカーストリートイレギュラーズ(BSI)」の一員がゲストに招かれます。BSIにて通過儀礼に提出する論文についての相談でした。
通常に倣いメンバーは持てる知識を披露しつつああでもないこうでもないと議論を交わし合いますが、ゲストもメンバーもあまり芳しい結論には至らず会話は尻すぼみになっていきます。そしてここで今まで言葉を挟まずにいたヘンリーが一言断りを入れ、この会を掌握していきます。
いつもながら着眼点が鋭い。
なのだが、どうもいつもとは違う。
常に冷静で穏やかなヘンリーの会話のエンジンが治まらない。いや、加速度を増して言葉が出てくる出てくる。
どうした、ヘンリー?
そして彼は最後に薄情をします。自身もシャーロキアンなのだと。
シャーロキアンにとって楽しい時間をもらえて嬉かったと彼は感謝を述べ、この話しを締めます。
推したるヘンリーがこんなに嬉々として熱量を持って捲くし立てて話す姿は中々あることではありません。(解決する事実に困惑や驚きを感じ入る姿もありながらも、常に淡々としています)
スキな事をハツラツと話す姿はやはり嬉しいものです。ましてや推したるヘンリーであると格別です。
話しの争点となる話題は専門性が高く、ままとっつきにくくあるものの、その難点を打破できるほどヘンリーの通常との様相の違いにワクワクしてしまいます。
溌剌とした推しを垣間見られるありがたさ。
「推しのオタク語り、いいわぁ。」
この作品を読み終え私は一言そう呟くのでした。
黒後家蜘蛛の会は名作であり大変面白いです。私の好みでも随一の作品であります。
シャーロキアンがホームズシリーズを原典(紹介した作品中でこのような記載が出てきます)としたように、私のミステリの教典と位置付ける作品であります。
だからこの場で語れる機会を設けていただけて大変嬉しいです。
皆さんスキな事、語っていますか?
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