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【MTG】君は本気で「一万円でレガシー」を楽しめると思っているのか?

はじめに

青なら《意志の力》4枚は参加費?

 いつだかTwitterで「レガシー始めたいのに《意志の力》高すぎ!買える値段にして欲しい!笑」といった旨のツイートが非常に伸びていた。それ自体は普段のインターネットだが、興味深いのがリプライ欄である。MTGは収集要素もあるから少しずつ集めていけば良いよ〜という分からんでもない意見もある一方で「バーン使いましょう!」や「パウパーやったらどうですか?」等々、人の話を聞いていないと思われる意見も散見された。

 おそらく発信者は、レガシー環境に興味があるからこそ《意志の力》が無ければまともに遊べないと考えており、それでもレガシーというフォーマットに魅力を感じているから、上記のようなツイートに至ったと思われる。つまりこの人は有望な志願者なのだ。ある程度は環境を知っていて、その上で青いデッキを握るには《意志の力》が必要である事まで認識している。

 それに対する、既存プレイヤーの「パウパーやったらどうですか?」は、築地で寿司屋を探している人に食通が「近くにマクドナルドありますよ!マック安くて美味いですよ!」と話かけてくるレベルのコミュニケーション不全を発生させているので絶望的な気持ちになった。マックが美味いのは知ってるけどこっちは築地まで電車乗ってきてるんだぞ。

参加費4万円は一つの事実だろう

 確かにレガシーで青いデッキを握るなら、デュアルランドは無理でもせめて《意志の力》4枚がないと手出し出来ないまま圧殺されないか?というのは僕の主観にも合致する。これ関係のツイートで「妥協してフォーマットリーガルな構築をしても(勝てないから)楽しめないだろう」という、組めたところでプレイアブルとは言えないだろうという意見も見られた。まあ勝てないと流石につまらないので正しい意見だと思う。

 デュアルランドにまつわる話としては「デュアルランド無しでも勝てました!」みたいなツイートを見かけるが《意志の力》4枚積んでいる時点で異常なカードゲームオタクに変わり無いので安心して欲しい。

でも本当にそうなのか?

 僕自身もローウィンからレガシーを触っている「おじ」とまでは言わずとも15年選手の「初老」くらいなので、ANT以外の青なら当然《意志の力》4枚をメイン積むものだと刷り込まれている。そうしないとベルチャー握って来たぞ~してくるプレイヤーに心拍数を跳ね上げながら怯え続けねばならないからだ。

……いや、もう何年もベルチャーいなくね?

 ここ10年間デルバーというクロックパーミッションを中心にメタが回っている以上、ぶっぱ系のアーキタイプはチーム戦以外でエンカウントしにくくなっている。それなら《意志の力》は必須ではなくなっているだろうし、実は予算をぐっと抑えてスタート出来るんじゃないか?もしメタを考えずに思考停止して、新規プレイヤーに「最低10万円は握ってきなよ」と言っているとしたら、とんでもない機会損失を生んでいるんじゃなかろうか?という疑念が湧き上がってきた。

 レガシーが好き勝手自由に楽しむフォーマットじゃなくなって(デッキリストがネットにアップロードされて、ちゃんとメタゲームが意識される様になって)からは「おれは《歪んだ世界》使うぜ」というテロリストとエンカウントして《意志の力》が無いと意味不明なスペルの意味不明な挙動に付き合わされるという事が激減した。ここ10年位は品行方正に《意志の力》を打ちあってはアドバンテージを失うゲームをしている。

GWだし「一万円」やるか!!

 これまたTwitterで定期的にプチ炎上する「一万円レガシー」という話題がある。言いだした人の人徳がさぞ無いのか、批判する人の根性がさぞひん曲がっているのか、インターネットでは招かねざるものとして扱われていた。
 しかし、この一万円レガシーという企画自体は新規プレイヤーの間口を広げるには結構アリだと僕は見ていた。MTGArenaから入った学生でも工面可能な額だし、こづかい制の家庭でも現実的な額だと思われたからだ。

 ちょうど今のレガシーに少し飽きてきた頃、なんかの拍子に《意志の力》参加費説と一万円レガシーが頭の片隅で思い起こされた。そこで友人の集まるDiscordに「GWに一万円でレガシー組んで普通に大会出てみない?」と参加者を募る投稿をしてみた。

気付いたら現物を揃えていた

こづかい万歳

「バーン組めば良くないっすか?」
「いや違くて、普通にレガシーやってる感が欲しいんだよね
「じゃあこんな感じかな……」

 流石はMTG15年選手の集まるゲートボール場、Penny Dreadfulのプレイヤーも居るだけあって次々に個性的なデッキリストが集まってきた。最初はパウパーでも1万円超えるから無理じゃね?と思っていたが、過去のトップレアが300円とかになっているので探索範囲が相当広い事が判明してきた。

 僕と友人Uに限っては構築を考えるだけでは飽き足らず、こづかい叩いて実際のカードを買ってしまった。とにかくカードショップでストレージを漁るのが楽しくてたまらない。1枚7円の《ネヴィニラルの円盤》に興奮して「これ8castにぶっ刺さるじゃんねぇ〜!!」と4枚購入したら、既に旧版が家に4枚あったりした。旧版を幾らで買ったかは思い出さないようにした。

7円で8castを完全に対策出来る 1000枚買え

……とにかく揃えてしまったからには大会に出るしかない。

 僕は《意志の力》が高いと言っていた彼のことが忘れられず、コテコテの青白コントロールを組み、友人Uは赤緑のビッグマナを組んだ。店でスリーブを入れてる途中で「土地入れてくんの忘れた!」とそこら辺にある基本地形を調達したりしたが、レガシーリーガルな60枚が完成。ここに一万円レガシー怪人が二人誕生した。

 僕は《基本に帰れ》中心の 青白コントロール になった。必然的に基本地形が多くなる状態を、せめてものメリットとして捉えたかったのである。フィニッシャーの《龍王、オジュタイ》と《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》については、ピン除去耐性が今のメタゲームにおいて有利に立ち回れると思って採用した。何より前者は200円、後者は300円というのが本当に素晴らしい。予てから一度使ってみたかったのだ。

タップインランドでライバルに差をつけろ!!

1万円レガシー初陣

僕「メインは合計で1万円以内になったよね?」
友人U「6000円
僕「いやー流石に舐めすぎ……あと最後にトーナメント出たのいつ?」
友人U「十数年前のエクステンデッド

 もうこの時点で気分は、強豪チームに対して日曜日の練習しかやらない自チームを送り出す少年野球チームの監督である。高校野球と違って負け続けてもゲームが進行するだけマシだ!今日はとにかく楽しもう!0-3するのは当たり前だからせめて1ゲーム取るのを目標にしよう!

地獄の結果発表

~~トーナメント終了後~~
友人U「あのさ……大きい声じゃ言えないけど1-2した」
おれ「……おれもそうなんだよね」
友達と一緒に勉強してないアピールしておいて自分だけ赤点免れた時みたいな・マラソン一緒に走ろうと言っておいて最後抜け駆けしたみたいな、後ろめたくなるのをやめろ……別に1-2はすごくねえだろ。

~~帰り路~~
友人U「クッソーーー!!!ミスって1点足らずに2-1逃したから《悪魔火》を入れようかな……」
おれ「《悪魔火》は絶対に違うと思うけど、6000円でここまで悔しがれるのはシンプルにすごい。さっきまで練習してない少年野球チームだったよね??」

おれ・友人U「つーか……普通に2-1目指せた?

おれ「僕は《基本に帰れ》を置いたらDoomsdayにかみ合って勝ったけど、赤緑ビッグマナは何に勝てたの?」
友人U「緑単エルドラージPost、あれ唱えるだけで誘発するから強いのな」
おれ「へぇ……(めっちゃ上位互換に見えるけどなあ)」

R1 URデルバー×〇×
R2 Doomsday ××
R3 Doomsday 〇×〇
Doomsday撃たれた後に《基本に帰れ》を置いたら相手が爆発した


めっちゃ味するぞ一万円レガシー!

おもしろポイント1. 昔の番長が安い

 当時は高嶺の花だったトップレアも今や缶ビールよりも安い値段で入手する事ができる。MTGWikiのアーキタイプから過去に暴れたトップレアを調べてみると良いが、3マナ以上になると値段が暴落しているものが殆どだ。スタンダードの頃から2桁落ちている奴がザラにいる。
 是非、この期に日々の晩酌をビールからトップバリューの「焼酎」と書かれた「焼酎」に変更してストレージを漁る人生への転換をオススメしたい。

「焼酎」

おもしろポイント2. 再録組が安い

 僕の遊んでいた十数年前のレガシーでは《剣を鋤に》はまだ700円位はしていたと記憶している。それが特殊セットで再録を重ねた結果、100円で入手可能になっている。トーナメントを志向する人にはここが一番重要なポイントで、ブレストもソープロも上位互換が存在していない=100万円レガシーと同レベルの駆け引きが可能、を意味している。

おもしろポイント3. 隠れOPを見つけろ

 価格で縛りを設けている以上、トップメタで活躍しているフィニッシャーを選択するのは困難だ。だからこそ環境理解に時間をかけ、既存アーキタイプの下位互換ではなくゼロから構築を始める楽しさがある。
 僕は《龍王、オジュタイ》を《カラカス》でバウンスされた日に、ストレージで《聖トラフトの霊》を発見してフィニッシャーとした。今のところ《開闢機関、勝利械》と並んで、一万円青白コンにおけるベストな選択肢の一つだと思っている。

貧者のジェイスにしか出来ない強みを押付けろ

おもしろポイント4. かみ合いを見つけろ

 このレガシーという環境には、現代の整備されたMTGでは考えられない相手にゲームをさせないカードが多く存在している。ヒムはランダムで相手を終わらせるパワーがあるし《寒気》や《魔力流出》などといった、特定の色・カードタイプへの対策カードも異常なものばかりだ。

 この「一万円」という竹槍を握ってトーナメントに出るからには、満遍なく刺さるカードよりもお前だけは絶対に終わらせるよという気持ちを込めてサイドボード(場合によってはメイン)を構築するのが良いと思う。

フロア熱狂・超絶おもしろ盛り上がりポイント

おもしろポイント5. 対戦相手がいる

 ハウスルールあるあるに対戦出来る友達が居なくなって自然消滅という問題がある。しかし僕たちの一万円レガシーは、勝手に《折れた直剣》縛りで対人プレイしているだけの亡者なので、レガシーに人がいる限りは対戦相手に困らないはずだ。対戦相手も折れた直剣握った亡者が目の前に座ったら嬉しいだろ……いや負けられないプレッシャーがすごいか……どうか既存プレイヤーに最大の敬意を払って土地をタップインして欲しい。

これから始めたい人に向けて

一万円レガシーのガイドライン

 なんか二人で1-2したら「俺もやってみようかな」という友人が現れ始めたのである程度のガイドラインを作ることにした。簡単ではあるが以下のリンクに一万円レガシーの構築方針を載せているので、少しでも興味が湧いたら参照して頂ければ幸いだ。

その後の一万円レガシー

デルバーを許さない友人Tの参戦

 後から入ってきた友人Tが不遜にも「一万円でデルバーに勝てるデッキ作るわ」と白黒コントロールを抱えて参戦した。本当にそんなものがあれば今のレガシーがこんな(メタが膠着している・新規プレイヤーが入ってこれない)環境にはなってないんだよなあ。

 そんな彼は初陣でレガシー神(タカノシゲキ)のURデルバーと当たっており、持ち込んで早々に不遜の代償を支払わされるハメになっていた。一万円レガシーの限界……現実……いや単純に友人が虐殺される光景を目にしたくなかったので、30分間のストレージを漁る現実逃避から戻ってみたら、レガシー神が《ギデオン・ジュラ》に殴られて首をかしげながら盤面を畳んでいた。ここで何があったんだ。

本当に何があったんだよ

ちゃんと勝ちたい

 友人Tが精力的にプレイしてくれるので、僕も1-2では飽き足らず、貪欲にも勝ち越しを目指したくなってきた。初陣での知見を構築に反映させ《龍王オジュタイ》よりも更に安価でパワフルな《聖トラフトの霊》を中心にした構築をスタートさせた。

 本気で勝ち越すため、相手を選ぶ《基本に帰れ》を抜いて7000円位になったら友人たちに「流石に紙束すぎない?」と心配されたため、MTGWikiでコスパの良いカードを探していたところ、400円になった《アズカンタの探索》を発見したのでコイツを4枚、それでも金が余っていたので《虹色の終焉》用にトライオーム1枚を追加した。

 余談だが《アズカンタの探索》はアドバンテージを取るまでかなり悠長な上に《紅蓮破》のターゲットにもなるから《蓄積された知識》を使うのもアリ、よりリーズナブルに組めると思う。

 やたらとbyeを引く体質なのでbye込みの2-1を複数回達成したが実質的には1-1で、勝ち越しとは言えない不完全燃焼が続いた。GW中の友人との遊びとして始めたのに、何をこんなに勝ちたがっているのか自分でも不思議だった。今考えるとわかる。日々の成長が楽しくて仕方が無かったんだ。

休日レガシーに参加

 朝早く起きてbye食らうのが嫌なのと、シンプルに参加費に1000円支払いたくないので初戦を捨てて2回戦目から休日レガシーに参加した。2回戦目から出て勝ち越すには、最低でも3-1以上しなくてはいけないという事実にはトーナメントが終わった後で気付いた。

結果:折れた直剣で3-1した
R1 不戦敗
R2 URデルバー 〇〇 
R3 デスタク ××
R4 BUGコントロール 〇〇
R4 URデルバー 〇×〇
よし!ちゃんとトップメタを斬ってるな!

 後述するが青相手の《対抗呪文》がとても強かった事に加えて、サイドに忍ばせておいた、デルバーに対する《悪斬の天使》の制圧力・逆転力は目を見張るものがあった。《狂乱の呪詛》を2枚貼られた上からダメージレースを制し、果てには対戦相手がチャンプブロックした自分のデルバーに《紅蓮破》を打ち込んでライフリンクを発生させないプレイを行ったりと、12年前を思い出す無法な強さを見せてくれた。

 ただデスタクに対して《呪文貫き》を抱えてタップインしたら《霊気の薬瓶》が通ってしまいカウンター抱えて負けたりしたので、こればかりは一万円レガシーの限界であるな……と分からされた。サイドボードに《終末》を積んでおけば多少結果が変わったかもしれない。200円で購入可能だ。

 そして勝てたマッチを振り返って考えると《意志の力》の不採用がカギだった。青同士の対戦では、アドバンテージを失いながらカウンターする《意志の力》は撃てば撃つほど少しずつ不利になってくる。本来は《表現の反復》でアドバンテージを回復出来る筈なのだが《対抗呪文》や《呪文貫き》で1対1交換がされるとリソース差が埋まっていかないため、長引かせる事に長けた青白コントロールが勝てた……と、運が良かった。

むすびに

《意志の力》の話題に始まり……

 この一万円レガシーは「《意志の力》高くて買えないからレガシー遊べないよ〜」→「本当にそうかな?」に端を発している訳だが、図らずとも綺麗に伏線が回収される形となった。無論《意志の力》でしか対処出来ないシチュエーションは多くあるのだが、対戦結果を見るにあの時に感じた「今のメタで必須なのかな?」という直感はそれなりに正しかったらしい。
 そもそも個人的にアドバンテージを失う《意志の力》を打つのが得意ではないため、十数年前からストレージに眠ったままだ。きっと《意志の力》が100円でもメインに4枚積む事は無かったと思う。

Counter target spell.

 この実験のためにレガシーの大会で、どうあがいてもタップインしか出来ないタップインランドを並べては《対抗呪文》を打つ僕と対戦してくれた対戦相手には感謝だ。土地は寝て出てくるが、真面目にメタゲームを研究していたので、たまに勝つこともあるだろうと、どうか大目に見てほしい。

一万円レガシーの限界

 一万円レガシーは構築がめちゃ楽しくてちゃんと戦えるというのは十分に証明出来たと思う。この文章を書いている今も、今月のこづかいを握って新しい構築がしたくてたまらない。けれど対応しきれない限界が明確に2つ存在していることを、発信者の責任として本稿の結びに代えて紹介したい。

 1つ目は、最初にも書いたベルチャーを始めとするぶっぱ系への対応力の少なさだ。墓地利用コンボに関しては《フェアリーの忌み者》等で後手0ターン目でも対処可能な場合があるが、ベルチャーは本当に《意志の力》が無ければ無理だと思う。

 2つ目は、代用出来ない魅力的な存在たちだ。デュアルランドやフェッチランドには代用品が幾らでもあるが、何れも高額な《虚空の杯》や《Nether Void》や《時のらせん》には代用品が存在しない。そして、この圧倒的なカードプールの広さこそ28年の歴史を持つTCGを遊ぶ醍醐味でもある。もし一万円レガシーをきっかけに「魅力的なやつら」に出会ってしまったのなら、臆せず、ただ無理ない範囲で飛び込んで欲しい。それまで我々は沼の底でにこやかに待ち構えていようと思う。

編集後記(2022/5/27投稿)

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