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グラディエーター2の感想放談

2024年11月22日に世界公開となったグラディエーター2を見てきました。
あまりネタバレにならないようにnoteします。
ローマ好きすぎで長くなってしまったのでお暇な時に見てください🙏

素晴らしかったところ

まずオープニング。始まるとすぐに前作の名場面がオイルペインティングなアニメーションで回想されます。これがかっこいい!

https://www.youtube.com/watch?v=-B1Hl2XbaAM


そして、映画のタイトルは GladIIator とローマ数字Ⅱが前作のタイトルに組み込まれたデザイン、超かっこいい!
前作を見てない人でも「ローマだな」って分かる仕組みです。(笑


あっという間の150分!

上映時間は2時間半ですが出だしからスペクタクルの連続で、長さを感じる暇もありませんでした。ドラマの尺や間の良さ、デンゼル・ワシントンの存在感も大きかったように思います。
下のショートムービーははラッセル・クロウの新作に対するコメント。

「私の人生を変えた作品。しかしマクシマスは死んでしまったんだ。…リドリー・スコットが続編を作ると決めたからには強い動機があるはずで、前作に見劣りするものを作るはずがない。」と複雑な心境を語っています。

リドリー・スコット映画の中でもかなり上の方

下のリンクは辛口批評でも有名なロッテン・トマトの「リドリー・スコット映画ランキング」です。1位はALIEN、GRADIATORは8位、GRADIATOR2は10位とかなり検討しています。ブラックホークダウンが11位、プロメテウスが12位なので「かなりの出来」です。


洗練されとる。。。

ハリウッドの映画技術や巨額の制作費のなせる技なのでしょう、カメラやライティング、様々な演出含め素晴らしい出来でした。前作は今となってみるとローマのCGはしょぼいですし、シーンのつなぎ目や演出で雑だったり編集が微妙なところがありますが、今作では全く気になるところがありませんでした。 最近のハリウッド映画は制作前にCGツールでシミュレーションをするそうで、なるほどという感じ。

前作では途中、コンモドゥスが皇帝の事務仕事をしているシーンなど、今見ると、昼メロドラマなの?という間の抜け場面がありますが、今回はちゃんとしています。

前作は5年の歳月をかけた過酷な制作だったそうですが、今回は1年ほどで制作されています。

歴史考証も前作ではモメにモメ、アドバイザーが離脱したりもあったそうです。 歴史考証やCG技術の進歩なのか不満のあったコロッセオも、今回は文献で伝わる大理石貼りの美しいものになっています。

コロッセオを前作同様に再建し、ローマのセットは「タイムスリップしたようだ」と関係者を驚かせたとか。

グラディエーターで違和感があったのは「現在の中東や北アフリカっぽい砂漠・廃墟感」でした。当時は世界中で今より緑が多く人間の存在は小さかったはずで、建物も風化している現在と違いペイントや装飾で美しかっただろうと思います。 今作では幾分、この点は修正されています。(ヌミディアや田舎のコロッセオはかなり埃っぽかったですが)

最近の研究ではローマ建築の内外は配色や装飾が美し施されていたと考えられています

HDOのドラマシリーズではこの点で最新の歴史考証が入りより生き生きとした街を再現していましたので、今作も世界史に疎いと言われるアメリカ大衆に迎合したのかなと思います。 リドリースコットは英国出身ですが英国は古代ローマ研究熱心だそうで、BBCでも様々なドキュメンタリーが制作されています。監督がどこで妥協をして来たのか、気になるところでもあります。


前作ではこんなミスも

オスカー受賞で映画史上最高の歴史活劇と言われたグラディエーターにもミスはあったようでこんなのが報告されています。撮影開始は1995年と30年近く前なので、かなり無理して作っていたのだろうな、というのがうかがえる写真です。


海戦劇<ナウマキア>を再現

ナウマキアは有名な海戦の再現で、ローマでのみ行われた戦闘ショーですが、今回これが出てきます。いったいいくらかけて作ったのか(笑
制作費は当初1億5000万ドルが3億ドル近くなったそうですが、配給会社は2億5000万に収めたと後に釈明。いずれにしても日本円で400億円ほどは制作に費やしているようです。

ローマ人はこれらのショーを 「ナヴァリア・プロエリア(海戦)」と呼んでいましたが、一般的にはギリシャ語の「ナウマキア」 という同義語で知られており 、この言葉はショーと、そのために作られた水場を同時に示すようになりました。

the-colosseum.net


お話がかなり濃くつながっている

脚本上、かなりの足かせになる点ですが主要な登場人物が前作とつながっていて「本当に続編」な脚本となっています。
前作と同じく主人公は時代と運命に翻弄され、奴隷階級である剣闘士に堕ち戦いを余儀なくされてしまいます。

ポール・メスカル(ルシウス役)

マキシマスは名前や「イメージ」が回想シーンなどで何度となく登場します。歴史からは消えても伝説の剣闘士将軍としてその「名前」が後世でも人々の心に焼き付いているという設定はファンなら上がるところでしょう。

いやほんと,かっこよかった

前作でも重要な役柄だった剣闘士の手配士はさらに格上のローマの権力者として、デンゼル・ワシントン演じる歴史上実在の人物で登場します。(デンゼルさんが主役なの?というくらいグイグイでています。)
彼の演技は他の俳優陣までも上に引き上げただろう、と思ってしまうほど完璧です。

剣闘士プロモーターでローマの有力者マクリヌス役はデンゼルさん
史実ではベルベル人の近衛長官だったとか

将軍というより麻薬王にしか見えないペドロ・パスカルですが、GoTのオベリン役で天才武術家だったイメージに違わぬヒラリ戦闘で、将軍なのに格闘最強という前作の世界観を踏襲しています。

将軍役のペドロ・パスカル。

セット、美術など背景も完璧。砂埃とかあらゆるものが大画面で見ても「本物級」で粗がないのがすごいです。物議を醸すような設定があるのはSNS時代に対応したかな?と思いました。 前作は「かなり真剣な歴史劇」でしたが今回はより大衆的かつ広い範囲の人に楽しんでもらう作風ですが、重厚感を出すためか物語の構成は前作とかなりにています。


アカンかったところ

ネタバレになるのでどうでも良い所だけ頑張って書きます。

あえて書きますけど、そんな悪くないです

カラカラ帝が違う…

創作歴史エンタメなので仕方ないのですが、カラカラ帝は軍人皇帝のベースとなったムキムキ系の皇帝で本作とは似ても似つかない皇帝だったと言われています。属州まで出張って行き反乱市民の虐殺を指揮したりと行動派だったようです。 兵士の給与をUPして自ら軍に赴いて一緒に活動して信頼を得ていたことで、元老院の脅威とみなされ悪口が大量に残っています。(笑

アラブ系だったというカラカラ帝。
この人の像がその後の軍人皇帝像のデザインになっているのだとか

海外では多くの「史実と比較」記事が出ているので鑑賞してから答え合わせするのも面白いかもです。

紅一点が60歳?
ヒロインが続投となったことで還暦オカンが再び暴走することになりました。

「またスカ!」

と言いたくなる場面もありましたが、ある意味リアル。人物の性格を変えない、制作のプロ根性を見た思いです。
でてくるだけで嫌な予感しかしないルッシア姉御ですが、前作以上に凶悪化してて、無くても良い不幸を発生させてしまいます。 リドリー・スコットは確信犯的に「男の世界」とのコントラストにこのオバハンを活用すると腹を決めたのでしょう。 鑑賞中の心の中は

「オィィ、、やるなよ、やるなよあー、やりやがったなババア!」

でしたから。

ブッダは女性のことを「天使の皮を被った地獄よりの死者」と例えたそうですが、うまいことを言うなぁ…とあらためて😷

ある意味最大の悪人。何度でも、愛のために間違いを⋯
北欧の人なのもなんか違和感ある59歳

これは好みでしか無いと思いますのでアレなんですが、Z世代に配慮したのか?出てくる人が全員良い人です。 ラッセル・クロウはは蛮族を殺しまくったローマの「恐ろしい」将軍で初めからから目が座ってて、その後は家族を惨殺され無敵の人になった人間凶器でした。 

強そうなジャイモン・フンスーもこの映画で役者人生が変わった人でしょう
ブラッドダイヤモンドでもこの役の雰囲気を引きづっています

剣闘士仲間も、前作は荒くれ者やアフリカのどこから来たかわからないようなツヨツヨ軍団。今回、そういういう人は出てきませんで、敵も主役もどこか品があり大人しめ。

皇帝も前線で戦争見張る怖い人で黒魔道士のよう

(他にも和田アキ子みたいなOO🐒の件とかあるのですが見てのお楽しみ)


なんか、悪役が怖くない

初代はアクが強すぎる俳優フォアキンジョーカー様でしたが今回は優しそうな金髪男子2名。子猿のペットを連れてたり、かわいいんです。

ふたりとも見た目は普通の男子です(白塗りですが)
合コンに呼べない人しか出てこない前作⋯。

敵も前作のようにいちいち変態とか壊れている感じの人が出てくるわけでもなく「まじめ」。 皇帝も前作が神戸のヤ◯ザの親分なら今回は越谷の半グレ位の感じです。

開けたらもっと怖いんです

特筆するべき点として、前作は顔に傷がある人がたくさん出てきますが、今作はそういうのも無し。おそらくリベラル的な配慮かとは思いますが表現の自由が減ったような気がしました。(今作でヤバイのはOO🐒くらいです。)



賛否が別れそうなマクシマス2世の設定

トレイラーでも強めに語られている主人公の出自なのでネタバレにならないと思いすが、今回の主役ルシウスが前作ヒーローのマクシマスの息子だという設定。(てか、トレイラーでこれ見せるのやり過ぎでは)

日本のyoutubeの映画解説などで、「前作でもマキシマスが自分の息子なので優遇していた」という解説がありますがこれは誤解です。

前作ではガリア戦争後にヒロインのルッシアが(以前付き合ってたことを匂わし)マクシマスに言い寄るシーンがあります。 
その流れで、ルッシアには息子(ルシウス)がいてもうすぐ8歳になる、と言うとマキシマスも「私の息子と同じ年齢だ」と答えています。 普通に考えれば、二人は10年近く前に別の人生を歩みそれぞれの子供をもうけていたことになりますし、映画の中でもその設定で通していました。

↓このシーンでは久々の出会いであることがわかります。

このシーンのすぐ後にマキシマスの妻子は殺害され、奴隷剣闘士として軟禁生活のローマで自分の子供と同じくらいの男の子(ルシウス)に話しかけられ優しく接する伏線となっています。劇中で数少ない、マキシマスが人の心になる瞬間でもありました。 (この時に少年に名前を聞いたマキシマスがとった行動は少年への特別な感情ではなく、周囲に自分を知るものがいるのでは?という警戒で、自分の息子の可能性が頭に無かったのは明らかです)

ちなみにここまではルッシアはイケイケ女子で性悪に描かれています。今作の解釈では、マクシマスと付き合っていたけど急に振って別の男と結婚したので、息子の種がマクシマスでもおかしくないよね?という事みたいです。

実際にローマ帝政時代には「不倫」と「堕胎」が社会問題となり少子化も慢性化し衰退の要因とされているので設定上は「OK」かもですが、前作でのマクシマスの性格、作品中では最初から最後まで回想シーンとして貫かれている「天国=奥さんと子どもが待つ場所」という彼の一途な世界観と合わない気もします。マクシマスの強さの源泉は前皇帝と家族への忠誠心なのですから「いやー、じつは同時期に皇帝の娘と付き合って出来ちゃってて」というのは、やはり違和感があります。

この点から、リドリスコットと脚本家は知恵を絞ったけど「マキシマス」を借りて来ないと十分盛り上がる話が作れなかった、という事だと推測しています。



迫力がやや足りない理由?

2は映像美もろもろ凄いのですが、良い人・きれいな人でそろえたせいか、戦闘など「生身の人間」のところで今ひとつ迫力が。

顔がかわいいのでしゃーない

制作経緯を調べると、計画が持ち上がった2002年には大筋の脚本は現在のと近い方向で決まっていたようですが、その実写版IPが売却されて制作が中止され、2018年にパラマウントが制作再開を許可、リドリー・スコットと脚本家たちが脚本を作るも廃案になったり、かなり紆余曲折があったのだとか。更に追い打ちをかけたのが2023年6月の俳優組合のストライキで撮影が止まるという不運がありなかなか大変だったようです。

ナルコスのイメージが強すぎて…(笑


前作で最も美しいシーンの1つ。
名場面を作る難しさを2で再認識しました。




決定的違いは視聴者か

ここまでの細かすぎる気になるポイントは個人的な好みなので無視するとして、それでも2つの点でGradiator2はかなりのハンデがあります。それは視聴者と時代の差。

前作のときにはかなり多くの人が「初めて見る本物の古代ローマ世界」であったこと、キリスト教な価値観(ローマがキリストを処刑したり皇帝は悪者)に添いやすい形で「落ちゆくローマ」「ダメな皇帝」がリアルに映像化され全世界が驚愕、歴史物に珍しい世界的な大ヒットとなり興行収益は3億ドルを突破。Gradiatorの成功でドラマシリーズやマンガなどローマ関連作品も増加し日本では塩野七生の本が爆売れ、多くの人が「ローマ通」になったり「古代ローマ体験組」となりました。

しかし、2は25年経過しCGなど映像表現がインフレしている中での公開なので、映像インパクトで視聴者を驚かせるのには限界があります。古代ローマ見てももう驚かないですし。

過去にはベン・ハーとかもありますが、役者がアメリカのまま
セットだけ頑張った感じ止まりでした

2つ目は政治への視点。SNSやメディアの混乱や米大統領イベントなどで2000年当時に比べて私達は「スレた民主国家の市民」となっているので民主制でも独裁でも政治はダメやん,となっていて「皇帝が悪いからダメなんだ」と単純に考える時代ではなくなっています。 

前フリ無くローマ皇帝が「ダメ人間」で始まる序盤を見ながら「兵庫知事問題とかぶるなぁ」、などとちょっと引いてしまい、「時代遅れなステレオタイプ」が物足りなさにつながっているように思いました。

暴君ネロ、カリギュラ、カラカラなど悪いローマ皇帝のイメージは、昔作られた映画「カリギュラ」の影響も大きいのじゃないかと思います。20世紀に作られた暴君皇帝のイメージは戦後冷戦の中で「民主化」と「石油」を武器に西側諸国(旧植民地支配連合)が世界戦略を行ったことと関連していると見ています。独裁はたしかに国内で大きな問題を起こしますが、戦争自体は民主国家のほうが巨大なものを起こしていて国際問題は多め。人間の性悪さの解決法とは言えない状況です。

映画などでは極端に破綻した人格で描かれがちなローマ皇帝ですが、現代ではこれらの「暴君」、実は良い政策もしていたことが知られています。カラカラも公衆浴場を作り市民に尽くしていますしね。(赤字幅は知らん)
これって文壇やメディアに(エセ)左寄りな人が多いこととも関係があるように思います。

巨大なカラカラ浴場。お湯があるのにカラカラとはこれいかに

カラカラ浴場は一説には3000の浴槽があったそうで、中で働く人も相当な数がいたはずで、これ自体が大きな経済エンジンであったことが想像できます。
日本の弥生時代ごろ、216年にこれだけ巨大な浴場が作れる水インフラ諸々を持っていたローマ。電子・電気のテクノロジーがない時代にどのように運営していたのか?驚愕しかありませんし、当時の皇帝を今の感覚で批評するのはちょっと考えたほうが…というのが私のローマ観だったりします。

ちなみに人間の本能として、皇帝など少数派を悪く捉える心理バイアスがあることがわかっています。同質性バイアスやスケープゴート理論、ステレオタイプとしても知られていますがこれらがよく知られるようになったのは2000年以降で、特に歴史学には反省の余地があります。 グラディエーターの制作で歴史専門家とかなり揉めたというのはこの辺りにも原因があろうかと思います。


全体としてはすごい映画

前作がとにかく偉大なこともあり、また塩野七生さんファンで古代ローマ好きなので思い入れが多くていろいろ書きましたが全体としては「めちゃ贅沢」な映画で、スペクタクル映画でもあり劇場で見るべき映画ですがお得感満載でした。

GRADIATORはブレイブハート、ロード・オブ・ザ・リングと並んで大好きな映画です。色々書いたけど、1を見直してからもう一度見に行こうと思います。


ロッテン・トマトは微妙判定

映画オタクが集まるせいか、やはり「前作と比較して」の辛口のコメントが目立っています。

前のと比べられても


参考:

カメラが神がかってかっこよいシーン


地中海世界の砂漠化の一因がわかる動画
https://youtu.be/hi-TlGZouY0?si=4NciJt3-oP9aHemG

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そんちゃー君
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