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境界を越えるバス/都県境編8/コミュニティバス(長尾団地西側)他

東京都神奈川県境編8(多摩丘陵編3)
現地調査2022年12月
初版公開2023年1月14日
この記事のデータ類は特記なき限り2023年1月現在のものです。
また、特記なき画像類は筆者自ら撮影・製作したものです。

多摩丘陵の都県境編第3回目は、都県境をコミュニティバスが越える、珍しい(かもしれない?)シーンを紹介します。前回の場所から近いので、別記事にするかどうか迷ったのですが、近隣に運転本数極僅少な一般路線バスの越境地点があるため、あわせて1つの記事にしました。


コミュニティバスの越境

 コミュニティバスの明確な(法律的)定義はないが、市町村および東京都の特別区などの地方自治体により設定された、自治体内の公共交通が不便な地域や公共施設などを結ぶ路線バスの類である。地方自治体直営の場合と既存のバス・タクシー会社などに業務を委託する場合があるが、車両や運行に関する諸経費はその地方自治体に負担になるため、原則としてその自治体の中で完結する路線となる場合が多い。
 ただし、地方自治体のエリアの形状と鉄道路線などの位置関係によっては、自治体の境界を越えて近隣の鉄道駅とを結んだ方が遥かに便利になる場合も少なからずある。当然ながら、運行経路が短くて済む分経費の節約にもなる。この代表的な例が、2023年現在市域内に鉄道路線が存在しない東京都武蔵村山市のコミュニティバス「MMシャトル」である。東隣の東大和市に所在する上北台駅・玉川上水駅へと路線を伸ばしている。以前は南隣の立川市に所在する武蔵砂川駅への路線もあった。
 もっとも、市町村レベルならばともかく、都道府県レベルで越境する路線を設定したコミュニティバスはあまり多くはない。今回紹介する稲城市コミュニティバス「iバス」も、前回記事で紹介したようにCルートは都県境の手前で折り返す形態となっている。しかし、A/Bルートは循環ルートの途上にて、平尾団地の西側で都県境を越え、神奈川県川崎市麻生区にある小田急多摩線栗平駅へ立ち寄るルートになっている。ちなみに、A/Bルートは基本は互いに逆回りであるが、一部区間が別ルートになっていたり、停車する停留所の順序が異なったりしている。
 なお、iバスAルートは所要時間が1周120分であり、2台で運行するため運転間隔が60~65分となっている。Bコースは所要時間が1周115分なので、2台運行で運転間隔がちょうど60分となっている。

稲城市南部=平尾地区と、バス路線が越境する地点の拡大図。
赤線がiバスが神奈川県に乗り入れる区間です。
ベースの白地図は freemap.jp より。
稲城市コミュニティバス「iバス」の全路線図。
稲城市公式サイト(https://www.city.inagi.tokyo.jp/)より。
栗平駅への乗り入れ区間は図の下の方です。

 稲城市にはJR南武線と京王相模原線が市域を通っている。しかし、前記事でも述べたように市域南部の平尾地区は神奈川県川崎市方向に突き出した形状となっており、これらの路線へのアクセスがしにくい。最南端のエリアからは小田急小田原線の新百合ヶ丘駅が最寄りとなるが、こちらには前回記事で紹介したように普通の路線バスが多数運転されている。一方、平尾団地の特に西側のエリアからは、栗平駅へ何とか徒歩で到達できるが、お年寄りや身体がやや不自由な方にとってはちょっと厳しい距離になっており、コミュニティバスが越境して乗り入れるのはちょうどよかったと推測される。
 なお、首都圏の例では東京都や横浜市・川崎市など、比較的大きな自治体が直営で運営する路線バスについては、コミュニティバスと呼ばれることはほとんどない。ただし、この手の公営交通事業は赤字基調で一般会計から補助金などで補填していることが多いため、コミュニティバスの要素を多分に含んでいるとみることもできる。同様に、地方の路線バスで自治体が多額の補助金をだしているケースも多々みられ、これも半分ぐらいはコミュニティバスと思ってよいかもしれない。

現場付近の実況

 長々と説明するよりも図や画像を見ていただいた方が早いので、さっそく載せておく。

現場付近のバス運行経路。
A/Bルートは互いに逆回りで、ループの途中で栗平駅に立ち寄ります。
都県境近隣の交差点にやって来たiバスAルート。
この交差点を左折し画面右方向に進むと都県境です。
都県境を越えてる最中の、栗平駅へ向かうiバスAルート。
都県境近隣の交差点に登ってきたiバスBルート。
都県境は尾根になっているので、ややきつめの登り坂です。
同じく栗平駅へ向かうiバスBルート。
車両の塗色は同じなので、大きな「A」「B」の表示で見分けます。
都県境を越えているiバス?、ではなく、近隣にある日帰り天然温泉の送迎バス(笑)。
栗平駅から戻ってきて上平尾経由で若葉台駅方面へ向かうiバスAルート。
同じく栗平駅から戻ってきて平尾団地方面に向かうiバスBルート。

 稲城市コミュニティバスiバスは、2001年10~11月にかけて試験運行を実施、翌2002年4月末から本格運行を開始した。栗平駅に立ち寄る路線は、2003年に運行開始された平尾団地~京王よみうりランド駅のルートからである。その後、何度か大規模な路線改変がなされており、栗平駅に立ち寄る路線も変更されているが、乗り入れそのものは継続されている。現行ルートは2017年3月末に改訂されたものである。

運転本数極僅少系統の越境地点

 前節で解説したiバスの越境ルートと並行する形で、小田急バスの柿生駅北口~平尾団地線が越境するルートがある。ただしこの路線は系統番号を与えられていないばかりか、運行が休日に1往復のみとなっている。現地のバス停で時刻表を確認したところ、平尾団地行が朝間/柿生駅行が夕刻の運転になっているため、行ったバスがそのまま折り返してくるわけではなさそうである。都県境最寄りの停留所は「日大アスレティックパーク」。いわゆる行楽施設ではなく、日本大学の運動場や野球場などの施設があるらしい。
 この路線が開設されたのは2020年7月からで、以前の記事で解説した”新08"系統が路線延伸され若葉台駅~長尾団地~新百合ヶ丘駅の運行となった際に同時に開設されている。都県境付近の道路も長尾地区から若葉台駅方面を結ぶ道路とほぼ同時期に整備された模様。開設初っ端から「免許維持路線」となってしまっているが、今後、この系統の運転本数が増えるのか、それともひっそりと消滅していくのか、成り行きを見守りたい。

現場付近の川崎市麻生区側からの都県境遠望。
都県境の尾根をぶった切って道路は通じています。
都県境付近から振り返ってみた風景。
画面左斜め奥の方向から都県境は続いているのですが、
この方向は尾根が切り開かれて宅地になった模様。
「日アスレティックパーク」の平尾団地方面行ポール。
運転は休日の朝に1本だけ。
「日大アスレティックパーク」の柿生駅方面行ポール
運転は休日夕刻の1本だけ。
正月などで休日ダイヤが続くときにには毎日運転となるのだろうか?と思ってみたり。

現場付近の行政区画来歴~栗平の地名の由来~

 平尾団地がある東京都稲城市側については、前回記事で述べたように、武蔵国多摩郡平尾村→神奈川県南多摩郡稲城村→(中略)→東京都稲城市平尾と変遷している。
 神奈川県川崎市麻生区側は、江戸期には武蔵国都筑郡栗木村と片平村の境界付近であった。明治期に入り都築郡の周辺の村と合併して柿生村となった後、昭和前期に川崎市に編入。昭和後期に政令指定都市移行により、まず川崎市多摩区となり、のちに分区により麻生区となったのは以前の記事で述べた通りである。
 小田急多摩線の栗平駅は1974年6月に多摩線の開業と共に開設された。駅舎が旧栗木村/ホームが旧片平村エリアに存在するため、両者から1文字づつとって「栗平」駅とした。その後、大規模区画整理と宅地開発が進み、栗平駅周辺地名も栗平となって現在に至っている。
 なお、旧柿生村エリアのうち、旧片平村・栗木村エリア以南は鶴見川水系に属する。稲城市平尾地区との間には前節で述べたように路線バスが貫いているかなりしっかりした尾根が存在するが、平尾地区も鶴見川水系であることは、以前の記事で述べた通りである。ただし、旧栗木村の北隣になる旧黒川村エリアは、稲城市の旧坂浜村エリア同様、多摩川水系三沢川の流域である。これについては、次記事以降で取り上げる予定の「若葉台駅周辺エリア」にて解説する予定である。

日大アスレティックパーク付近から遠望した、多摩川水系と鶴見川水系の分水嶺尾根。

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