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境界を越えるバス/旧国境編4/横浜市港南区・栄区境(旧久良岐郡日下村・鎌倉郡本郷村境)

武蔵・相模国境編その4
2022年9月現地調査
2022/09/27初版公開
この記事のデータ類は2022年9月時点のものです。
またこの記事の画像は特記なき限り筆者が撮影したものです。

今回の舞台は、武蔵・相模国境とはいえど、両側とも横浜市内となってしまった箇所になります。港南区と栄区の境界になっており、尾根筋もそこそこはっきりしています。3箇所まとめてお届けしますが、1つを除いてニュータウン開発でできた新しい道です。

【2022/10/06:一部修正】
何をどう勘違いしたのか、地点Aを経由する路線群、正確には「平日のみ運転」で「土曜は運休」です。現地で時刻表も見てたはずなのに…すいません……m(_ _)m

場所

 武蔵・相模の国境は、以前の記事で解説した相武隧道から北は、三浦半島中央分水嶺をなぞって北上する。この区間から、中央分水嶺は横浜市内を突っ切る形になるが、金沢区/磯子区と栄区の区境になっている。横浜市内で3番目に標高の高い地点である円海山周辺の港南区・磯子区・栄区の三区境付近から中央分水嶺の向きもやや西寄りになり、北東側が港南区/南西側が栄区となる。今回紹介する区境を越える3つのバス路線群は、このエリアにある。
 ただし、3つの国境=区境となる箇所には、1箇所を除いて明確な名前がついていないので、東側から順に「地点A(横浜栄高校近傍)」「地点B(元大橋公園近傍)」「地点C(七曲)」と呼ぶことにおする。このうち地点Cには、現代の地名としては残っていないが、近くに「七曲」というバス停がある。このは古くからの鎌倉街道(の1つ)を改修したもので、国境分水嶺を越えるこの地点はつづら折りとなっていたので七曲と呼ばれていた。

七曲にある道祖神の碑と解説板。

 本来、武蔵・相模の国境が分水嶺であり尾根筋であったが、大規模な宅地開発が進んだ結果、尾根筋の位置が変化しているように見える場所もある。特に今回紹介する3地点のうちの東側2箇所は、尾根筋を横浜市道環状三号線が走り、そこから若干降った地点が区界になっているように見える。これら道路は確かに降っているのだが、この区間は深い掘割になっており、実際に区境は尾根を掘り下げた地点になっている。尾根断面を明瞭に見ることができる。
 3箇所ある国境越えの地点の武蔵国側=横浜市港南区側は、全て港南台9丁目(地点Cの七曲のみ、日野南6丁目との境界)である。相模国側=横浜市栄区側は、地点Aが上郷町/地点Bが元大橋1丁目/地点C七曲が鍛冶ヶ谷1丁目と2丁目の境界になっている。
 ちなみに、武蔵・相模の国境は、地点Cの七曲の少し西側から、港南・栄の区境をも離れ、港南区内を南北に突っ切るようになる。この区間については次記事「武蔵・相模国境編その5」で解説する予定である(が、現地調査には、まだ相当の時間がかかりそうである)。

今回調査を行った3地点。
場所が判りやすいよう、前回記事の相武隧道の位置がいれてあります。
ベースになった白地図は、いつもの通り freemap.jp から。

通過するバス路線と道路

今回調査した地点とバス路線の概略図。
縮尺とかコーナーの具合はいい加減なのでご留意のほど。

地点A(横浜栄高校近傍)

国境=区境付近の風景。
奥の横浜環状三号線との交差点から下り坂になっていますが、
掘割になっていることから、尾根筋の位置が判ります。

 いきなりであるが、この地点を経由するバス路線群は少し特殊で、土休日運休である。地点名の副称に挙げた横浜栄高校への通学路線なのか、と思ったが、現地調査の結果、必ずしもそうではないかもしれないことが分かった。
 この地点を通るのは、JR根岸線港南台駅を拠点とする"港83~86"系統で、神奈川中央交通本郷営業所の担当。このうち"港83"系統以外は、平日朝のみ運転される系統である。この3系統については通学(特に登校)専用系統であるとみなせるかもしれない。下校時=夕刻はどうするんだ?、という疑問もあるが、多少行先は異なるが"港83"が終日走っているし、少し歩けば別路線が頻繁に走っている場所=本郷車庫に出られるので、問題は少ない。
 一方、"港83"系統港南台駅~桂台中央は、土休日こそ運休するが、平日は日中~夜間にかけてもほぼ毎時3本程度運転され、明らかに高校生の通学以外の目的で運行されているように見受けられる。ちなみに残りの系統の運転区間を挙げておくと、"港84"系統港南台駅~北桂台/"港85"系統港南台駅~庄戸/"港86"系統港南台駅~上郷ネオポリスである。

区境=国境を通過する"港83"系統桂台中央行。
バス車体の中間付近にある道路標識が国境=区境。

 極めつけは、「横浜栄高校」のバス停が、学校本体から結構離れているのである。特に港南台駅行のポールは、道路こそ余裕のある歩道付き往復2車線だが辺りが未開発の山林?の辺りに建っている。初見さんがこの路線を使ったら、バス停で降りたはよいが肝心の高校はどこ?、と迷子になりそうな感じである。ちなみに、これらの系統には後述するように「地点B」を経由する経路違いの系統が存在し、そちらは毎日運転である。

問題?の「横浜栄高校」停留所港南台駅方面のポール。
高校はどこ??

 なお、この道路の栄区側に坂を下りきって右折したすぐ先には、神奈川中央交通の本郷車庫がある。地点Aはここへ出入庫する回送便も頻繁に通る。また、尾根上の横浜環状三号線~本郷車庫の間は、往復2車線とはいえ大型車同士が何の気を遣わずにすれ違えるレベルの立派な道路が通っているが、沿道はほぼ未開発である。

現場付近を通過する回送バス。
おそらく港南台駅への送り込み?
回送バスの中にはこんな車も。
どう見ても、京浜急行バス(の高速路線バス用車両)に見えるのですが…

 以上の点を鑑みると、港南台駅へアクセスする需要は多いが、後述するように「地点B」経由の路線は道路事情の関係から渋滞しやすく、増発に限度があることから、特に平日の朝、駅への速達性を確保するためにこちらの道路を通る系統群が設定されている、と推察される。
 なお、本郷車庫の前の道は、「武相国境編その3」で紹介した、相武隧道を潜ってきた神奈川県道23号原宿六浦線で、金沢八景駅~大船駅を結ぶ"船08"系統が通る道でもある。金沢八景駅から本郷車庫へ出入庫する便は"金29"系統/大船駅から本郷車庫へ出入庫する便は"船15"系統と番号が分けられている。本郷車庫から西へ暫く行くと、後述する七曲を越えてきた神奈川県道21号線と合流する。

坂を下りきった先の交差点。地点Aから下ってくると左側に出てきます。
交差点名が「神奈中車庫前」になっています。
正面に見える回送バスは、"船11"系統大船駅~上之の入庫便と推定されます。
(「上之」バス停は2つ先です。)

地点B(元大橋公園近傍)

 こちらは未開発地が多々残る地点A経由の道路と異なり、先に住宅街が開発された後、その中の1つで、三浦半島中央分水嶺を越える道につながっているものを、強引?に幹線道路扱いにしたように見受けられる線形になっており、2度、90度近く方向を変える。うち1か所はT字路となる交差点である。道路自体は往復2車線であるが、住宅街の中の道らしく歩道は(狭いが)両側に備えているものの、車道自体に若干余裕がない幅になっていて、路線バス同士のすれ違いには気を遣う必要があるレベルである。

現場付近の風景。
やはり、奥の横浜環状三号線との交差点から下り坂になっています。
が、掘割になっていて、道路左側に尾根断面が見えます。
なお、道路右側の森になってる部分には、国境が手前の方に来ています。
これは国境=区境付近ではないですが、現場近くでバス通りが90度向きを変える交差点。
港南台駅行バスは奥からきて左へ行きます(直進方向に道はないです)。
奥の方にバスが見えます。系統は判らないけど、港南台駅行であることは確かです。

 通過する系統も多岐にわたり、すべて港南台駅発着であるが、"港31, 33, 35, 36, 37, 39, 40, 55, 81, 82, 87, 88, 90, 93"系統と、少数運転系統も含まれるが合計14系統もの路線がこの地点を通過する。日中でも片道毎時6~9本程度運転されている。全路線が神奈川中央交通による運行で、ほぼ本郷営業所の担当である。
 これでは、特に平日の朝にはこの地点をバイパスする路線を設定したくなってもおかしくはない。ちなみに、”港33"系統港南台駅~桂台中央が前節で述べた"港83"系統の経路違い、"港35 "系統港南台駅〜庄戸が"港85"系統の経路違い、”港36 / 37"系統港南台駅~上郷ネオポリスが"港86"系統の経路違い、"港90"系統港南台駅~北桂台が"港84"系統の経路違いとなっている。"港37"系統が深夜帯のみの運転である以外は、全日終日にわたって運転される。
 ここまで書けばいうまでもないが、本節で挙げた系統群が主系統で、前節で挙げた系統群は速達性を考慮した副系統である、と推察される。ただし、本郷車庫へ営業運転で出入庫する系統は、地点Bを経由する"港39"系統のみで、地点Aを経由する(営業運転での)出入庫便は存在しない点に留意する必要はある。

現場付近を通過する"港88"系統桂台循環線右回り。
現場付近を通過する"港82"系統港南台駅行。桂台循環左回り。
横浜環状3号線交差点の歩道橋上から見た現場。
深い掘割になっていることが実感できます。
通過するバスは"港55”系統庄戸循環線。

 なお、副称に挙げた元大橋公園の中には、相武国境の石碑が存在する。この道路が国境を越える地点からは若干離れているが、その東側で国境がこの道路に沿うように南に張り出しているため、公園の石碑から国境は割と近い位置にある。

元大橋公園内にあった、武相国境の石碑。
元からここにあったのか、移設されたのかは不明。

地点C:七曲

 今回調査した3地点のうち、この道路だけが県道で、しかも主要地方道である。正式名称は神奈川県道21号横浜鎌倉線で、その名の通り横浜と鎌倉を(一部狭隘区間があるものの)結んでいる。しかも、3地点のうち本地点のみに「七曲」という正式?な名称がついている。道幅は主要地方道らしく、余裕のある往復4車線で両側に広めの歩道付きである。

現場付近の風景。
本記事のトップ画像に使ったものとは微妙にアングルが異なる、はず?

 七曲を経由する路線群は、地点A/Bを経由するものとは、明らかに性格を異にし、この地点を通るほぼすべての路線が港南台駅を経由しない
 七曲を通るバス路線は、"船05"系統大船駅~上大岡駅と"船20"系統大船駅~上大岡駅~桜木町駅が主力である。各々が日中は毎時3本程度の運転である。ここまでに挙げた系統は、全て神奈川中央交通の担当であったが、"船05”系統は主に江ノ電バスが担当している。この系統は”A21”系統上大岡駅~大船駅~鎌倉駅の区間運転という扱いのようであるが、実際には鎌倉駅まで直通する便は僅少で、”船05"系統上大岡駅~大船駅間の折り返し便がほとんどである。
 ちなみに、江ノ電バスは、国交省が定めたガイドラインに準拠し、系統番号記号を「アルファベット+数字」をしているものが主流であるが、上大岡駅~大船駅の系統については、並走する神奈中に合わせたためか「漢字+数字」の系統番号記号表記となっている。

現場を通過する"船20"系統桜木町行。
バスの先頭が、ちょうど国境=区境です。
現場を通過する"船20"系統大船駅行。
長大路線だけど、ほぼ定刻できました。
(道路わきの雑草がうざいです…主要地方道なのに…)
現場にはこんな珍客?も出現します。
江ノ電バスの車両ですが、"船05"系統や"A21系統ではなさそう。
中長距離(高速)路線バスがここを通るという情報は無かったはずですが…
路線バスではないですが、スクールバスも通ります。

 神奈川中央交通担当便には、一応、"船19"系統大船駅~港南台駅という路線もあるが、運転本数が早朝に大船駅行が片道1本運転されるだけである。A/B地点を通る系統が港南台駅に南側からアクセスするのに対し、この系統は北側からアクセスする。港南台駅自体はホームと線路は掘割の中なので、南口地上に設けられたバスロータリーには、南北両方向から容易にあくせすできる。この他に運転本数僅少の路線には、"上06"系統上大岡駅~天神橋という路線もある。「天神橋」停留所は「七曲」停留所の3つ先になる。早朝および深夜に少数運転される模様。
 なお、前々節で述べた通り、神奈川県道21号線はこの先で相武隧道を潜ってきた神奈川県道23号線と合流する。その先で県道21号線は鎌倉方面へ、県道23号線は大船方面に分岐するが、江ノ電バスの"A21"系統鎌倉駅行は大船駅を経由するため、神奈川県道23号線を辿っていく

行政区画の変遷

 1969(昭和44)年代に開発工事が起工されたエリアであり、江戸時代にはどの村に属していたのか判別しにくいため、1989(明治22)年の町村制施行以降分について、行政区画の変遷をまとめておく。ちなみに根岸線が全通し、港南台駅が開業したのが1973(昭和48)年である。

武蔵国久良岐郡側

1889(明治22)年:神奈川県久良岐郡日下村が成立。
1927(昭和2)年:横浜市に編入後、10月に中区の一部となる。
1943(昭和18)年:分区により、旧日下村エリアは南区に属する。
1969(昭和44)年:分区により、旧日下村エリアは港南区に属する。

相模国鎌倉郡側

1889(明治22)年:神奈川県鎌倉郡本郷村が成立。
1939(昭和14)年:横浜市に編入され、戸塚区の一部になる。
1986(昭和61)年:分区により、旧本郷村エリアは栄区となる。
 区名は公募で決められたが、その中には「本郷区」とする案もあったようである。

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