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魔法みたいな夜


魔法みたいな夜だったな。
でもこれは魔法じゃないんだよ。
普通のなんでもない夜なんだ。
俺とお前の間に音楽を置いて待ち合わせをしたらこんな夜になったんだ。
明日は今日の続きなんだ。
ずっとずっと、一生今日の続きなんだ。
未来がどうなるかなんてわかんないよ。
今は心から笑顔でいられているかもしれないけど明日、1年後、5年後10年後辛くて笑えない時が来るかもしれない。
その時は今日の歌声を思い出して。
もしかしたらそんな余裕ないかもしれない。
俺たちの事なんか思い出せないかもしれない。
それでも俺の唄は、俺たちの音楽は勝手にお前のそばにいるよ。
絶対にお前を1人になんてさせない。
宇宙ごと抱きしめてやるよ。
ベイビーアイラブユーだぜ。




最後に彼はこう言った。
ステージの上で自分の言葉を真摯に伝える彼の目はガラスみたいにキラキラしていた。


夏から始まったツアーも秋の訪れとともに今日で終わりを迎えた。
運良く初日と最終日に参加する事が出来た。
彼らの音楽を聴き始めた頃にはこんな光景が見られるなんて想像もしていなかった。
今はもうあまり大きな声でファンを公言する事はなくなってしまった。
途中聴かなくなった時期もある。
実はタイトルもよく知らない曲も沢山ある。
それでも気づかないだけで彼らの言葉が、音楽がいつもそばにいた。

子供の頃PV集を繰り返し繰り返し観ていた。
11週連続トップ10に入っていた事も覚えている。
初めて友人と行ったライブは彼らのツアーだった。
トマトが好きな彼は変なペガサスの舞を披露していた。
夏の夜に部屋の明かりを消して窓を開けて聴いた唄を覚えている。
当時付き合っていた恋人に熱が出ないと身体がある事わかんねーのかよって言われた。ちょっと喧嘩になった。
なんだか自分の知っている彼らと変わってしまったような気がしてあまり聴かなくなった。
たまにライブには行っていた。
最後に行ったライブハウスではあまり空気が良くなくてファイナルなのにと少し残念な気持ちになった。
今までもっと大きなステージに沢山立ってきた彼らが武道館ではなんだか違う思いを抱えているように見えた。
彼らが初めて立つ東京ドームは私にとっても初めての東京ドームだった。
まさか7万人が見ている中ではしゃいでシールドを折り土下座するとは思わなかった。
新曲を聴いた時彼の真骨頂を聴いた気がした。
花道が出来るなんて思わなかった。
まさかハンドマイクで唄う日が来るなんて夢にも思わなかった。
13年越しに金色の彼が作った唄を彼の誕生日に聴けると思わなかった。
22周年のあの日に誰にも聴かせていない曲を初めて私たちに聴かせてくれた。
火を噴く特効を使うと思わなかった。
5年ぶりに見せてくれた景色はオーロラのようでとても美しかった。

初日に同じ映像を見ているのに4人が雪原に立つ写真を見た瞬間涙が溢れてきた。

身近な絶望を描く才能が世界一ある(と個人的に思っている)彼の曲はいつも大抵最後は隣に君がいなかった。
出会いの喜び、別れの悲しみ、残されて1人になった唄の中の僕は聴いている私でもありみんなでもあり彼でもあるのだろう。
そんな彼が20年後あんなに真っ直ぐな愛を唄うとは夢にも思わなかった。
まさしく新世界が広がった。
最強のラブソングだ。

君と会った時僕の今日までが意味を貰ったよ

この言葉きっと沢山の思いがあるんだろうな。
唄の中の僕の言葉でもあるし彼の思いでもあるし私たち一人一人の言葉でもあるんだろうな。


変わらないという事は実は案外難しいのかもしれない。
変わってしまったように見えただけできっと子供の頃から変わらずずっと一緒にいる彼らはいつも私の人生に寄り添ってくれていた。
こけしみたいな表情で叩くドラムもトークの引き出しがないギターも東京ドームのステージでトランスフォームするベースも全部受け止めてくれって言うボーカルも出会った時と何も変わらずそこで音楽を奏でていた。
彼らとの思い出が沢山、数え切れないくらいある。
そしてこれからも増えていくのだろう。
そう思える夜だった。
今日の私の歌声がいつか私に寄り添う日が来たらきっと今日の事を思い出す。

ガラスのような目をした4人は今日も笑顔で音を出している。

今までの自分を抱きしめたくなったしこれからの自分の背中を押してあげたくなった。
そんな夜だった。








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