人を殺した日

寂しいという感情がよくわかりません。

『寂しかったの?』
寂しかったら他の人と寝ても許してくれるの?

某日、スーパーに行きました。
商品を選んでいるとふと視線を感じ、そちらを見ると男性がジッとこちらを見ていました。キャップを被った細身の男性。黒いシャツに黒いジーパン。カゴを持って微動だにしません。
他の人ではないことが分かりました。しかしマスクと帽子に隠れていない部分をいくら必死で見ても、もう定かではない顔の造形を思い出す行為にしかならず、自分がとっくに彼の顔を思い出せないことに気がつくだけでした。互いに一向に目を逸らそうとせず、側から見たら奇妙な光景だっだと思います。距離にして約1メートル。時間にして10数秒。我にかえった私が一歩踏み出すと、男は踵を返して去っていきました。

こちらを睨むような、蔑むような、憐れむような視線。そう知覚したのは私です。彼が一体どんな思いで私を見て、私だと気付き、立ち止まり見つめていたのか。私は一体いつから、なにを見なくなっていたのか。
改めて自分が彼にふさわしくない人間である事を知り、納得しました。

いつか彼は『寂しかったら電話しても良いよ。』と言ってくれました。

じゃあ…今。


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