違和感と満足感とライブ感(SAKANAQUARIUMアダプトONLINE)

2020年8月16日、コロナ禍真っ只中に観たSAKANAQUARIUM光ONLINE。
ライブが行えず、不要不急の優先順位がドン底に配置され、誰もが「芸術」の在り方について考えた。
そんな中、チームサカナクションで工夫に工夫を重ね、完璧なものに仕上げた最高のライブエンタテインメント。見終わった感想は単純に「完璧」の一言だった。
ミスもなく、コンセプト通りミュージックビデオとライブをリアルタイムで再現した一点の澱みもない仕上がり。どの角度から見ても完璧だった。
「こんなに完璧にこなしてライブである意味はあるのか?」
技術力の高さ故の矛盾。全てにおいて高い技術力で表現を行うバンドが、リアルタイムでも最高の表現を実現してしまうとライブ感が失われてしまうという矛盾。
盲点だった。技巧派のバンドとコロナ禍で一番苦しんだチームの50000%の仕事が産んだコロナ禍における悲壮だったのかも知れない。
2021年11月21日、SAKANAQUARIUMアダプトONLINE。
昨年と同じような感覚に陥ることを覚悟しながらストリーム視聴。完全に裏切られてしまった。
特筆したいのは音作り。いい意味で荒っぽいDelayやReverbの空間エフェクトが効いた岩寺基晴氏のギター、グリッサンドの一つまで官能的に響く草刈愛美氏のベースライン、リアルタイムでフィルターを巧みに操る岡崎英美氏のキーボード、生ドラムとシンセドラムをシームレスに操り、8ビートにも関わらず変拍子を気取ったリズムを刻む江島啓一氏のドラム。一人一人の音が喧嘩することなく均等に主張されたバランス。まさしく「アンサンブル」とはこのことではないかと感じさせるミックスであった。
曲間ヴァースのグルーヴも相まって、「ライブってこれだよな」と思わせる最高の音色。昨年の「光」では感じられなかった「いい意味での違和感」を真っ向から受ける事になった。
メンバー一人一人のこだわりだけではなく、浦本雅史氏の技術力と定量化できない耳が成せるアウトプットなのではなかろうか。
「光」が「ミュージックビデオをリアルタイムで再現する」ものだったのに対して、「アダプト」は「ミュージックビデオとライブの融合」という進化を遂げたのだと思う。この一年で、今の世の中に、言葉通り適応してきた作品であったと言える。
昨年の「光」が出口の見えない世の中における最大限の表現だったのに対して、今年の「アダプト」は出口が見え始めた世界観がよく表された作品だったと言えよう。これが偶然の結果なのか、彼らなりの将来に対する「答え」を見出したのかは彼らのみぞ知ることであろう。
「改革」や「革命」を声高に訴えるリーダーに支持者が集まる現代において、「適応(アダプト)」「適用(アプライ)」こそが正しい進化であるはずである。そう訴えてるように感じた山口一郎氏のコンセプト発表に共感を覚え、今後の展開にますます惹き付けられることになるだろう。
サカナクションの新たなストーリーの幕開け。今後の展開が待ちきれない。

※追伸:草刈愛美氏が今回初めて舞台で使用したFender American Professional II Jazz Bass (Mystic Surf Green) の音色は、ヴィンテージにはないパリッとしたシャープな音符を奏でており、「月の椀」を始め今回のライブでは欠かせない裏の立役者。バンドと共にこのコロナ禍で進化するFender社にも感銘を受けたライブであった。

#サカナクション #アダプトONLINE