見出し画像

異色の刑事小説!「浜中刑事の妄想と檄運」

小島正樹さんの「浜中刑事~」はシリーズもので
「浜中刑事の妄想と檄運」の他に4作品出版されている。

私は小島正樹さんの作品の中でも、
この浜中刑事シリーズが大好きだ。

とにかく浜中刑事が面白い。

警察官になれば、誰だって本部の花形、
捜査一課の刑事に憧れ、何とか手柄を
あげて上司の覚えめでたく、捜査一課に
推薦してもらおうと頑張る。

しかし、この浜中刑事の夢は、田舎の
派出署のお巡りさんになって、田舎で
起きる何気ない小さな事件や、住民の
困りごとを解決して、あわよくば
地元の可愛い女の子と結婚して平凡な
お巡りさん人生を貫くことだ。

刑事らしくなく、顔を心も優しい浜中は、
被害者や被害者遺族だけでなく、
容疑者に対しても心を砕く。
素直で善意に満ち溢れた若き警察官なのだ。

そして、自分の夢を叶えるために、目立たず
おとなしく巡査として真面目に働いていた。

そんな彼がなぜ刑事になってしまったのか?

それは、とんでもない強運が彼についてしまったからだ。
交番勤務時代、たまたま困っていた年配の
婦人を助けてから、不審な行動をしていた男に職質を
かけたらその男が大きな事件の端緒を握っていたり、
ゴミ出しをしていた男にたまたま声をかけたら、
その男がストーカーだったりと、
浜中は大きな事件を解決に導いたのだ。

自分の思惑とは全く逆の方向へと流される
浜中。周囲からの賞賛に困り果てていると、
それが謙虚な態度ととらえられたのか、益々
注目を浴び、本部捜査一課の刑事になったのだった。

班長の美田園は、浜中の「強運」という武器を
最大限に活かすため、優秀で刑事らしい夏木を
相棒に選び、事件が起こると二人を常に
「遊撃班」として自由に捜査させた。

本書には、2編の中編が収録されている。
まず、「浜中刑事の強運」。
おしゃれな骨董雑貨店の店主は、妻に内緒で
浮気をしていたが、ある日とうとうばれてしまう。
妻は浮気相手の女性の家に行ったらしい。
妻は逆上すると何をするかわからない、恐ろしい女だ。
大きな不安を胸に抱え女性の家に行くと、
妻は呆然自失状態、隣室に女性の遺体があると言ったが
確認すると女性にはまだ息があった。
助けるか?しかし男に悪魔が囁く。女性からは弱みを
握られ、それが表沙汰になると危険。妻はもう
男性にとっては何の価値もない。
浮気相手の女性を殺し、妻にその罪を背負わせる。
男の恐ろしい完全犯罪計画が幕を開ける・・・・。

そして「浜中刑事の悲運」。
愛する妻と娘と3人で平凡だが幸せな日々を送っていた
男性。しかし、ある日妻が灯油を頭からかぶり火をつけて
焼身自殺を図った。妻は公金を横領し薬物に手を染め、
逃げきれなくなり自殺したという。
男性はそんなことを絶対に納得できなかった。やがて、
男性とその娘は妻の死の真相を掴み、妻を死に追いやった
男を探しあてた。
男性は警察に訴えたが、警察は話を聞こうともしない。
妻を嵌めた男をどうしても許せない男性は、復讐を誓う。
そしてとうとう恨みを晴らした。
男性は、警察を欺くために周到な準備をしていた。

一編は、身勝手な男の罪を暴く物語。
もう一編は、妻の復讐に燃える男の物語。

浜中刑事と夏木刑事はどちらの物語でも、
早くに犯人を特定している。
しかし、彼らがいかにして罪を逃れようとしたのか?
犯行の手口、そして完璧なアリバイを崩すことが
出来ないのだ。

浜中刑事についている「強運」がいかに発動され、
事件の真相に至るのか?

地道な捜査描写と、浜中の持つ「強運」の巧な融合に
思わず膝を打ちたくなるのだ!
「え~そういうことだったのか!」と叫びたくなる。
納得感が半端ない。
そして、事件の裏に秘められた企み、
鮮やかすぎる反転の妙に驚かされるのだ。

『浜中刑事の妄想と檄運』小島正樹 南雲堂

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?