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人の悪意が「闇ハラ」を生む?「闇ハラ」VS「闇祓」

辻村深月さんの初の本格ホラーミステリ小説
「闇祓」(角川文庫)読了。
以前読んだ時、あまりの衝撃と面白さに
文庫化されたら絶対に再読すると決めていた作品。

「闇をおしつけ、周囲の人達を不幸の
どん底に突き落とす。そしてたくさんの人が死ぬ」

人が死ぬほどの「闇」とはいったい何なのか?

「転校生」
寡黙で何を考えているのかわからないため
クラスで一人浮いている転校生・要に、
親切に接する真面目な委員長・澪。
しかし、そんな彼女に要は不審な態度で迫る。
彼の人との距離感の取り方に疑問を持った澪は、
友人たちに相談するが「好かれてるんじゃない?」と
からかわれる始末。
ところが、唐突に「今日、家に行っていい?」と
尋ねたり、家の周りに出没したりするようになりと
かなりヤバい行動を繰り返す要に、恐怖を覚えた澪は
憧れの先輩・神原に助けを求めるが――。

「隣人」
デザイナーズマンションのようにリノベーション
された団地の一室に一家で越してきた、梨津。
息子のママ友たちは同じマンションに住んでいる
人も多く、その中でボス的立場にいるママ友
の家に集まるようになった。
しかし、梨津はその集まりがとても苦手だった。
特に空気を一切読まない一人の不気味な主婦に
梨津の日常は次第に恐怖に侵されてゆく・・・。
女性だけの狭いコミュニティで繰り広げられる
常軌を逸したマウンティング、人の顔色を
伺いながら強制される同調圧力。
そんな日々の中で自分の価値観が失われてゆく。
そして、住人たちは次々と事故や不幸に見舞われる。

「班長」
小学校に男子児童が転校して来てから、クラスの
様子がおかしくなった。彼は正義を振りかざし、
クラスを支配する・・・。

「同僚」
あるサラリーマンは、営業部に異動してきた
ベテランの男性社員を執拗に怒鳴る上司に
辟易していた。同僚の女性先輩に相談し、
何とかしようとするが・・・・。
ベテラン男性社員の異動から部内が険悪になってゆく・・・。

4つの短編に描かれる物語は、
普通の人間が「悪意」にさらされ、
徐々に壊れてゆく様が、圧倒的筆致で
描かれ、心をひどくざわつかせる。

直接の暴力や言葉で相手を追いつめるのではなく、
ただ闇が持つ「正義」の理論を押し付けるだけ。
それだけで人は何が正しいのか?自分はどうすれば
良いのかわからなくなり、自我を失い、ある者は
自殺、ある者は殺人に走り、ある者は狂気に陥る。

「闇」をふりまくものたちが周囲の人間を
どんどん巻き込んでゆく。
「悪意」が増殖し、闇となり迫ってくる・・・。
その闇を祓うのが「闇祓」だ。
闇をまとう者たちを追いつめ、そして闇を祓う。

「転校生」から始まる度肝を抜かれる展開に目が離せない!
いっきに読ませる面白さであっという間に
読み切ってしまった。

現代社会は「闇」に覆われている。
今、身近にも闇が迫っている、他人ごとではないと思った。

『闇祓』辻村深月 角川文庫

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