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苦悩する子供たちの心を救う仲田刑事を描く連作集『少女が最後に見た蛍』

犯罪に巻き込まれ、心に傷を持った子供たちの
心に寄り添う仲田蛍刑事。

仲田蛍刑事が登場する警察小説シリーズは
現代日本社会の歪みを浮き彫りにし、
心に強く残る。
同級生の女子を殺害した容疑で逮捕された
少女に向き合う物語「希望が死んだ夜に」
児童虐待の少女を救う「あの子の殺人計画」
友人をかばう少女に寄り添う「陽だまりに至る病」

いずれの作品も現代の格差社会の犠牲者・
子どもたちが事件の当事者になったり、
事件に巻き込まれたりするミステリー小説。

どの作品でも仲田刑事は子どもたちの心を
最優先に考慮し捜査を行う。
そんな仲田の事を他の刑事たちはもどかしく感じている。
しかし、仲田が子供たちが関わった事件を
次々と解決に導いているのは事実だ。
仲田の捜査は独特だ。
事件関係者の心を「想像」し、事件の真相に
迫ってゆくからだ。

この作品はそんな仲田の知られざる過去に
迫った連作集。

「十七歳の目撃者」
友人が女性の鞄をひったくる現場を目撃した少年。
そのショックで逃げようとしたが、
倒れた女性が気になり戻って様子を伺う。
その時、思わず「ごめんなさい」と謝罪の
言葉を口にしてしまう・・・。
事件を目撃したにも関わらず頑なに
心を閉ざす少年に仲田がとった行動とは?

この作品は、仲田刑事の少年に対する
心遣いと優しさとそして厳しさが
描かれ、仲田が子供たちの事件にどう
向き合っているのか、よくわかる作品だ。

「初恋の彼は、あの日あのとき」
仲田の小学校時代のある思い出が当時の
同級生たちによって語られる。そして
ある一人の男子児童をめぐる初恋の
思い出と彼の事情も・・。

「言の葉」
女性政治家の言動に日ごろから怒りを
ためていた14歳の少年は、ある雨の日
彼女の事務所の窓に向かってリンゴを
投げつけた・・・。
デマで溢れかえるSNSの書き込みに踊らされ、
事件を起こしてしまった少年に仲田は
どう対処したのか?事件の真相と
深すぎる結末に涙腺がゆるむ。
また、生活安全課の仲田は、刑事課の
警察官たちに煙たがられている。
しかしその中にありながら、自分の信念を
曲げず、一途に子供たちのために仕事を
する彼女の凛とした姿勢が胸に迫る。
仲田の真意を知ると誰もが大切なことに
気づく。

「生活安全課における仲田先輩の日常」
仲田に憧れる後輩刑事・聖澤真澄は、
最近の仲田の体調を心配している。
名門の小学校で防犯講和を担当した
聖澤。女子児童の問いに答えられず
仲田からアドバイスされると児童の意外な
反応に救われる。
同じ小学校の男子児童がスーパーで板チョコを
万引きしたとの通報で現場に行って男児から
事情を聴くと、自分の好きなゲームの
キャラクターに仲田がそっくりで仲田に
会いたくて万引きしたと言う。
聖澤は児童の様子から違う理由なのではと感じるが・・・
やはり仲田にはかなわない。万引きの真相に
憤りを感じてしまった。

「少女が最後に見た蛍」
生活安全課の仲田蛍はある日、中学時代の
同級生・来栖楓と思いがけず再会する。
楓は中学時代、桐山蛍子という同級生を
いじめていた。仲田はそんな蛍子を
守ろうと色々と手を尽くしていた。
しかし、いじめはエスカレートし逆に
蛍子の心を傷つけてしまった。
そしていじめを苦に自殺してしまったのだ。
仲田にとって中学時代のこの事件は心に
深い影を落としてしまった。
その話を聞いた捜査一課の真鍋は、蛍子の
自殺の背後には仲田さえ気づかなった
真相があるのではないかと思い、調べ始める。
すると、予想すらしなかった事実が浮かび上がってきた。
人はどこまでも残酷になる。心の闇に
捕らわれた人たちのとても悲しい真実が
仲田を打ちのめす。

「仲田&真壁刑事」シリーズ最新作は
仲田がなぜ警察官になったのかに迫る。
心に響く珠玉の短編集だ。

『少女が最後に見た蛍』天祢涼 文藝春秋

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