百物語

修学旅行の際、私は運良く当時最も仲の良かった二人と三人部屋で同室になっていた。
旅行中の常とも言うべきか、揃ってなんとなく興奮して眠れずに取り留めのない話をしていたのだが、その話も尽きがちになり、明日も早いし寝るかといった雰囲気が漂ってきた。
「このまま寝るのは勿体無いから何かしようぜ」
「いいけど何するんだ?」
普段引っ込み思案なAのせっかくの提案ではあったが、誰かが持ってくるだろうの三連鎖で誰もトランプなどの遊べるツールを持ってきていなかったのでこう言わざるを得なかった。
「じゃあ百物語なんかどうだ?」
突っ走り傾向のBがいつも通り考えなしに切り出す。何がじゃあなのかもわからない。そんなに話せることあったらさて寝ようなんて雰囲気になんてならないだろう、とのAのツッコミももっともだ。それでもBの気持ちは完全に百物語へと一直線に向かっている。
これはいつもの流れ。何を言っても百物語が始まることを察した私が部屋を探すと三本の蝋燭を発見することができた。
「急で話のストックも無いし、一人一本、一つずつ何か話すか」
と言いながら二人にろうそくを手渡す。
蝋燭に火をつけ、電灯を消す。これで一応準備は完了だ。

Bが切り出す。
「百物語ならぬ三物語、締まりはないけど眠気覚ましにいっちょやっていこう」
「三物語だと百物語の1/33サイズの妖怪でも出てくんのかな?」
「そんな妖怪なら見てみたいな」
Aと私も乗ってくる。ジャンケンの結果、私→A→Bと負けた順に話すことに決まった。

まず私がいつもの「意味がわかると怖い話」で口火を切る。話を終え、蝋燭を吹き消す。眠気覚ましの状況下で意味が分かってくれてるか話すこちらが怖かったが、一応理解はしてくれていたようで安心する。
続いてA、まともに怖い話を始める。どこで仕入れた話なのかと尋ねても上手くはぐらかされたせいで、余計に怖さを感じる結果になってしまった。実体験だったのかもしれないが、深入りはやめておいた。余韻たっぷりに蝋燭を吹き消す様子も怖さを深める。
最後にBがちょっとエロ仕立てのオチの話をし、これまでの流れを少し損ねる微妙な雰囲気を作り出したが、気にする様子もなく最後の火を消した。

じっくり一~二分ほど暗闇の中で待っただろうか。
「・・・何ともないな」
沈黙に耐え切れなくなったのかBが口を開く。
「正直なところちょっと期待してたんだけどな・・・」
「まあ三物語じゃなあ・・・」
「しょうがない。明日しんどくなるし寝るか・・・」
こっそり何かが起こることを期待していたAと私も少し残念な気持ちを残しながら各々ベッドに入ろうとした。すると何かを思い出したかのように、
「ちょっと待った。ここでとっておきのを一つ話してやるよ」
「お、いいねえ!」
示し合わせたかのように私たち三人の声が揃った。
再び座り直す。
そして話が始まったが、私はそれを聞く気にはなれず、可能な限り気配を消して部屋から抜け出した。