「凶悪」

源田の毎日映画2日目は白石和彌監督の「凶悪」。恐ろしい映画だった。

ピエール瀧は改めてすごい俳優だ。「サンクチュアリ 聖域」での親方役の熱演は記憶に新しい。ヤクザ時代と死刑囚時代では本当に人が変わったように見える。顔の皺など何一つ変わっていないのにだ。
またリリーフランキーの先生役はとても好みだった。いつも気の抜けた様な声と様子なのに怖い時はフツーに怖い。あと老人ホームを見て「ここは現代の油田だよ」などのセンスのあるワードが結構クセになっていた自分がいた。
私は山田孝之の映画を何気にあまり見たことがなかったので、「勇者ヨシヒコ」やモンスターハンターのCMなどの印象しかなかった。とんでもない俳優だ。行き過ぎたジャーナリズムに取り憑かれた男を演じるのは、凛とした顔であると同時に生気を失っている山田孝之にしかできないであろう。

映画の内容だが、見ている時には(クソ)園子温監督の「冷たい熱帯魚」を彷彿とさせた。変に演出を凝らさずに事実だけを淡々と見せていくあのスタイルは監督が違うだけでこうも違うのかと思った。最初は須藤の凄惨な事件を断片的に見せて興味を惹かせる。そして簡単に記者の素性と物語の導入をしてからの長い回想シーン。結構ショッキングな映像が多かった上にBGMがあんまりないから結構怖かった。しかも実際の事件をベースにしているという事実が映画に何倍もの深みを与える。回想が終わり、山田孝之メインの章。事件の記事が売れて先生は捕まった。裁判のシーンは緊迫感がすごかった。そこそこ注目されてる事件の裁判の傍聴席が空くことがあるかと野暮なコメントはさておき、裁判所という場所のせいかセリフ一言一句の重みがもの凄かった。最後の山田孝之の「生きている実感など感じるな」と須藤に放つシーンはくるものがあった。自分がジャーナリズムに取り憑かれるあまり崩壊していく家族とは対照的にキリスト教のおかげで人生が少し明るくなっている須藤との2人の対比を象徴するシーンだったろう。裁判のシーンが終わり、我々が山田孝之のジャーナリズム精神に引いているシーンで作中で1番の人格者であった妻がついにおかしくなってしまった。しかしそんなことも気にせず更にジャーナリズムに取り憑かれる山田孝之に対し最後面会室で先生が「俺を一番憎んでるのは被害者でもなく須藤でもなく、、、」と言って山田孝之に指を刺す。そうして面会室からカメラが引いていき画面中央に向け山田孝之が小さくなっていく。

見る前に組んでおいたコーラを一滴も飲まないくらいには凄まじい映画だった。ショッキングな映像の多さによりもう一度見たいとはあまり思わないが、良い映画に出会えた。


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