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モンスターエアライン

 ふと目が覚めると、飛行機の中だった。日本を発ってからどれくらいたっただろう?かなりの時間眠った気がするが、まだ目的地には着かないらしい。窓側に顔を向けると、隣の席の老紳士が寝ぼけ顔の僕を見て穏やかに微笑んでいた。気まずくなって、僕は前方の天井を見上げる。見慣れた禁煙とシートベルトサインの横に今は消灯しているが見慣れないサインがあることに気付く。ライオンの横顔のようなサインだ。


 ぼんやりとそのサインを眺めていると、突然そのサインが点灯し、この世のものとは思えない恐ろしい何かの鳴き声とともに機体がガタガタと揺れ始めた。
「暴れだしおったか……。」
隣の老紳士がつぶやいた。【いったいどういうこと?】という顔をして、老紳士の方を向く。
「なんだ、おまえさんは知らなかったのか。」
と老紳士はこの飛行機について説明を始めた。

 老紳士曰く、この飛行機の中には空を飛べる魔物がいて、その魔物の魔力を利用して飛んでいるらしい。時々魔物が暴れるので機体が揺れることがあるが、じきに飼育係が電気ショックで大人しくさせるので問題ないとのこと。

 「どうして魔物は逃げ出さないのだろう?」
僕は聞いた。
「一昔前なら魔物も自由に空を飛べただろう。だが、今の空はそうはいかん。小さな鳥達ならまだしも、魔物は体が大きすぎる。他の飛行機などとぶつかってしまうかもしれないし、下手をすれば打ち落とされるかもしれん。魔物も頭ではこうするしか飛び続ける方法はないことを理解しておるのだ。ただ、どうしても我慢できない時があるのだろう。時々あのように暴れてしまうのだ。」
気がつけば、揺れはおさまっていた。複雑な気持ちのまま僕は深くシートに座り、目を閉じた。

 (助けて!)どこかから声がする。(ここから出して!!)びっくりして老紳士の方を見る。老紳士は急に僕が動いたのに驚いて僕の方を見返す。どうも何も聞こえて無いらしい。僕はいてもたってもいられなくなり、ベルトを外して席を立とうとした。その時、機体が再び大きく揺れる。

 ドサッ!ベッドから落ちた衝撃で僕は目を覚ます。
「あぁ……。今日もまた仕事か……。」

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