方向変換は駐車の練習ではなく転回の練習

以前別のブログで書いていた記事です。仕事で教習指導員をしているので、ぼくの文章では車の運転に関する話がちょこちょこ出てきます。――――――――――――――――――――――――――――――

 教習所でやる普通車の課題の中に「方向変換」というのがあって、覚えている方もいるかもしれない。それについていくつか述べておきたいことがある。

 一つ目、この課題の名前はあくまで方向変換であって「バック駐車」ではないということ。私はこの点は大事な点だと思う。車をある方向に曲げながら後退させて進入路に入れて、もと来た方向とは逆に出ていくという動きは、たしかにバック駐車でそういう動きをするからそう言っても間違いではないのだが、この課題の名前は方向変換と名付けられていて、厳密に言うとバック駐車の練習ではないのだ。それに、バック駐車であれば直角に曲げながら駐車するよりも、頭を少し降って後退していくのが、ありふれたバック駐車の方法ではないか。そちらのほうが免許を取った後の実際の運転では間違いなく必須の技術になってくるだろう。

 二つ目は、方向変換とはなにかということだ。進入路という言葉を大事にしておこう。車庫に入れて車を出すのではなくて、進入「路」、路=道にいったん車を後退させてから出ていく。これはスイッチターンと呼ばれる、Uターンと同じ「転回」の操作なのだ。もと来た方向とは逆の方向に車を誘導したいが、そのとき、可能ならUターンしたいのだ。だが、進行している道がUターンするにはあまりにも狭いから、進入路に車を後退させてからもと来たほうとは逆に出直すという操作になる。これはUターンするには狭いくらいの道路を走りながらやることだから、回りの交通の状況をしっかり確認しつつ行わないと、他の車や歩行者に迷惑をかけてしまうかもしれない。進入路から人や自転車や自動車は来てないかしっかり確認しなきゃいけないし、確認して後退させていくときは後ろから人や自転車や自動車が来てないか確認して、万一後退中にそれらが来ても、どちらに下がろうとしているのか(まっすぐ後退しようとしているのか、進入路に車を後退させようとしているのか)わかるようにしておく必要がある。たとえば急いでいる自転車が、後退している車の脇を抜けられるか判断するかもしれない。曲がろうとしているとわかれば(ウィンカーが出ていれば)、脇を抜けようという判断にはならないはずだ。駐車の場合は、車が後退していく先に駐車スペースがあれば、やりたいことは一目瞭然だが、方向変換のときは後退していく先が駐車スペースとは限らず、むしろ単に道路かもしれない。まっすぐ下がるつもりなら、道幅が広くなっているところまで下がってすれ違いをしたいのかもしれない。ここで進入路に曲がるよのウィンカーが出ていれば、方向変換(スイッチターン)したいんだなとすぐわかるわけだ。だから方向変換では合図が必要になる。

 こう考えてくると、方向変換が一段階でなく二段階の項目なのには納得できる。方向変換は車の車両感覚を養うためのトレーニングとか、後退の駐車の練習のためにやっているわけではなく(たしかにそのときにも使えるんだけど)、これ自体が道幅がせまいところで使う、きわめて実践的な、かつ路上で行うにはむずかしいテクニックなのだ。まわりの交通を妨害するような転回は道交法で禁止されているのだから。

 中研に行った時に、偶然にも本物のスイッチターンを見せてくれた同期には本当に感謝したい。彼があれを見せてくれなければ、私はずっと、方向変換は駐車の練習だと勘違いしたままだっただろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?