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Pavement 『Terror Twilight』

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🎧 Pavement『Terror Twilight』

時は2000年問題という与太話に揺れる1999年のこと。
当時嫁が務めていた英会話学校に来ていたアメリカ人教師。
白人、20代半ば、金髪ショート、身長は160ちょっとで日本の中学生のような体格、大人しくて日本のアニメやバンドにも詳しいオタク(当時はオタクという言葉は無かったけど)、優しくてナイスガイ、得意な日本語は「お疲れさあーーん」。

私のことは、日本人なのにThe CureやThe Smithsが好きで自分と同じ匂いがするコミュ障なオタクと思っていたに違いない。とんでもない地球の果てまで来て、
大好きな音楽や映画の話ができずフラストレーションが溜まっていたんだろう、
片言の英語でも興味深げに私の話を聞いてくれた。
当時はYouTubeもSpotifyも無かったし。

私は、90年代に入ってカラオケ用にしょーもない邦楽を聴きまくる奇病にかかり、90年代半ばまで洋楽から遠ざかっていた。今思うとオアシスやハッピーマンデーズなどのマンチェスターブームを体感しなかったのは良かったのかもしれない(今聴いてもあんまり…なので)。90年代半ばから後半にかけてBeck、Red Hot Chilli Peppers、Pearl Jamなどメジャーな洋楽を聴きながらリハビリをしていた。

そんな時に彼が、私が好きそうないろんなアーティストをいろいろ教えてくれた。
The Flaming Lips
Violent femmes
Cornelius(いや日本人ですけど)
Supergrass
Lush
そしてこのPavement

初めてLo-fi(ローファイ)に触れたのは90年代半ばのタワーレコードアメリカ村店(現在の難波店)のLo-fi特集だったと思う。当時サンプルで何を聴いたか覚えていないが、アメリカでこんな気怠い音楽がブームになるんだと不思議な気持ちになったのを覚えている。
セバドーの時も書いたが、Lo-fiはロックでもないブルースでもないフォークでもないポップでもない。例えるなら轟音ギターバンドだった頃のRadioheadからセンスを引いて気怠さを増した音楽だ。

そして1999年、彼が『Terror Twilight』を貸してくれた。
初回 「ナニコレ、やる気あんのかこいつら」
2回目「なんかちょっとブルースっぽい渋さもあるな」
3回目「うーん、なんか止まらん」
18歳で大阪に出てきて天下一品ラーメンを初めて食べた時と同じ流れだ。
結局今でも定期的に聴き続けてる数枚のアルバムの一つとなった。

このアルバムのオススメ曲は全部だが、特に「The Hexx」のギターソロは、ヴェルヴェットアンダーグランド「Oh! Sweet Nuthin’」のそれに匹敵する泣けるメロディーで大好きだ。私は楽器ができないので、目の前で本人がギターを弾いているような弦を弾く音や擦る音が好きだ。そして、一回聴いてはその魅力が分からず、数回聴き込むことで永遠の友となるアルバムが好きだ。その両方がこのアルバムにはあるような気がする。

プロデューサーはかのナイジェル・ゴルドリッチ(Radiohead、Beck、Travisなど)。悲しいことにこのアルバムはPavementのラストアルバムとなり、フロントマンのスティーブン・マルクマスはこのアルバムが一番嫌いなんだそう。きっとLo-fiという言葉も嫌いなんだろう。彼はグランジ全盛期にグランジをディスったりするなかなかの偏屈者だ。その心の歪みと暗さが歌詞に出ている。

「Spit On A Stranger」

 君がどう感じようと どれだけ犠牲を払おうと
 リアルに感じる時はいつも 何が待っていようと
 君に何が必要だとしても 大したことじゃなくても
 リアルに感じる時はいつも これだと感じる時はいつも
 僕はずっと 君が僕に言ったことを必死に考えてきた
 それが結局意味するところも その過程も 行間にあるものも
 今僕にははっきりわかった

 僕は他人に唾を吐ける
 僕をそこから引っ張り出してくれ
 君は冷酷な他人
 僕をそこから引っ張り出してくれ

確かに古いアルバムから聴いていくと、このアルバムは若干メジャー嗜好になっているのかもしれない。でもいいものはいいし、作ったアーティストとファンの想いが一致する必要もないと思う。

とりあえず天一食べに行ってきます。

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