Donald Fagen 『The Nightfly』
🎧 Donald Fagen『The Nightfly』
サウンドストリート
今からはるか昔レコード店が2軒しかないど田舎に住んでいた私には、洋楽の情報はラジオと音楽雑誌が全てだった。音楽雑誌はMusic Life、ラジオはNHKーFMの「サウンドストリート」、AMは「全英トップ20」。
当時受験勉強をしながらラジカセでカセットテープに録音していたのがサウンドストリートだった。ラジカセの前にスタンバイして曲が始まる直前に録音ボタンを押し、曲が終わったら止めるという...これを書いてて当時を思い出して気持ち悪くなってきた。録音に失敗した時の絶望感は今思い出しても胃液が逆流しそうになる。しかし、ボタンの押し遅れ、早押し、テープ残量確認漏れ、テープが絡んで録音が止まった時のボタンが上がる”カチャ”という音、そんな失敗は今の世の中にはない。カセットラベルへの曲名の書き間違いもない。
いい世の中になった。
MCの渋谷陽一さん(現ロッキンオン社長)の批評と時々紹介してくれる歌詞の和訳、たまに登場するスティーブ(?)さんだったかのネイティブのバンド批評はとても勉強になり、受験勉強を忘れさせてくれた。
大人の音楽
それまでCheap Trick、Deep Purple、Sex Pistolsなどを聴いていたが、Roxy Music、The Smiths、The Cureなど徐々に大人の音楽を聴き始めた頃だった。なんか大衆音楽じゃない音を聴いている大人だと思っていた。ど田舎なのでそんな音楽を聴いているやつもいなかったのもある。
サウンドストリートでDonald Fagen『The Nightfly』を初めて耳にしたのはその頃だった。衝撃は無かった。ドキドキする高揚もなかった。ただただクリアな音と心地よい声に虜になった。ギター、ベース、ドラム、ピアノ、ホーン全てが体の中に染み込んでくるのがわかった。「音楽を聴く」ということを初めて知った気分だった。かっこいいポスターが欲しい、自分が演奏している想像をしたい、それまでの音楽に持っていたそんな想いは全く感じなかった。
「この音楽をずっと聴いていたい」ただそれだけだった。
カセットの底力
ど田舎のレコード店には当然Donald Fagenなど無いので、サウンドストリートで録音した数曲のカセットを死ぬほど聴きまくった。
数年して実家の近所に小さなレンタルレコード店が出来て、速攻でカセットにダビングして初めてアルバムを全曲聴いた。大学で大阪に出てからもそのカセットを聴きまくった。ステレオは実家にあり、下宿でCDプレーヤーを買うお金も無かったので、大学を卒業して社会人になってもそのカセットを聴き続けた。
26歳で結婚し新婚旅行で行ったニューヨークの「Sam Goody」で初めてCDを買った後もカセットは捨てずに持っていた。
生涯再生回数更新中
初めて出会ってから40年近くなる。いつも手元にあり聴き続けている生涯再生回数がぶっちぎりトップのアルバムとなった。どの時代でも聴いていたので、このアルバムを聴いてあの頃を思い出すということが無い。しいて言うならノートパソコンが世に出始めた頃、IBM(現レノボ)のThinkPadのCMで「IGY」が使用されていたと言うことぐらいだ。
残念ながらその後のアルバムは、今のところこのアルバムを上回ることはない。その代わりこのアルバムをきっかけにSteely Dan(Steely DanはDonald FagenとWalter Beckerのデュオバンド)の素晴らしいアルバムに出会えた。Steely Danの来日公演も観た。Donald Fagenの曲も演奏してSteely Danの曲より歓声があったのはちょっと複雑な気分だったが。残念ながらWalter Beckerは数年前に亡くなってしまったが、Donald Fagenは音楽を続けていると聞いて次回作を楽しみにしている。
機会があれば是非
このアルバムですが、フュージョン、ジャズ、ポップス、全ての要素があり、「IGY」「New Frontier」などの代表曲を持つ。説明ベタなのですいません。とにかく機会があったら是非一度聴いてください。
あなたの長い友になる事は保証します。
そろそろ新しいCDに買い替えよっかな。
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