見出し画像

今ひとたびの、白。

「じゃあ、配ります。五十音順に呼ぶから、呼ばれた人から取りに来て。石森」

「はい」

虹花さんが受け取ったそれの、中央に書かれた名前がやけにくっきりと目に飛び込んできた。

受け取った人が増えていくにつれて、周りのざわめきが増していく。

「次、2期生ね。井上」

「はい!」

さっそく着て鏡に写してみる人、今まで着ていたものと並べて写真を撮る人、お互いに写真を撮りあう人。

反応はそれぞれだけど、みんなここが新しいスタートだと感じているのだろう。

「で、これが天ちゃん。以上だね」

「え?」

最後に受け取った天ちゃんがこちらを振り向く。

そのきょとんとした顔が可愛くて、思わず微笑んでしまった。

大丈夫だよ。

天ちゃんにひらひらと手を振りながら、もう片方の手を傍らのバッグに突っ込み、それを引っ張り出してみせる。

白い生地に染め抜かれた、私の名前。

ちらりと横を見ると、他の5人も同じように自分のビブスを取り出していた。

天ちゃんや、他のメンバーのものに比べると、ほんのちょっと使い込まれているけれど、そんなの大した問題じゃない。

あの夏、私たち15人に配られた、初めてのビブス。

まだ何者でもなかった私たちが手に入れた、初めての居場所。

今では5人は紫の、3人は空色の、そしてあの子は別の場所で頑張っている。

一度は私たちも色をもらったけど、今日からまたこうして白を纏う。

あの時とはもしかしたら違う白かもしれない。

でも、白は白だ。

ここからまた、始めよう。

私たちの色を。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?