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事件が起きて泣いた(わたしだけの乳がん物語 #17)


2023/9/9(土) 入院4日目:傷の痛みは無い、腕は上がる

朝は4:00に目が覚めてそのまま起きた。Aくんは土曜授業でこの日は授業参観。いつもは夫婦で行くのだけど、今回は夫に音楽の授業を見てもらうことにした。おはようのLINEとともに電話して、寝起きのAくんとお話をする。

週末の回診はまた別の先生がいらっしゃった。問題なし。先生も看護師さんも痛みの具合を聞いてくださるのだけど、もちろん痛み止めは飲んでるけどぜんぜん痛くない。ただ、腋の付け根というか、腋の下が何かを挟んでいる感触で少し痛い。胸の傷口からセンチネルリンパ節を見つけられたようで、腋の下には切った痕は無かった。

腋の付け根にあるぷよぷよしたものは何かと週末担当の先生に聞いてみると、組織、らしい。もともとあったところから乳房だけを切除したから目立つのだそう。出てるんじゃなくて、胸が無くなったから目立つのか。「時間経つと下側の部分がぷよぷよしてきます」とも言った。ほんとに?!

午前中に看護師さんが髪の毛を洗ってくださって頭もすっきり。なんだかんだ映画観たりしているうちにあっという間にお昼。持ち込んだPCで病院でもできる仕事はしたけど、これといって生産的なことを一切していないのに、バランスの良い健康的な食事を届けてくださるのだからありがたい。でも、さすがにお腹は空いていない。このあたりから食事が楽しみでもあり、訓練のような気がしてきた。

体の症状として、”腕が上がらない”という体験記をよく目にしていたのだけど、そんなことは無かった。少しの突っ張りや痛みを感じたけど、よいしょと髪の毛を後ろで束ねたり、右手で高い位置にあるシャワーやクローゼットのハンガーを取ることもできた。腕が上がる上がらないの差が何からくるのかは分からないけど、体の動きに関してはそこまで不便さを感じることはなかった。

Aくんがお昼に学校から帰ってきて少し電話した。授業参観だったから頑張ったらしい。夫曰く、リコーダーも上手だったとのこと。Aくんが「手術はまだ?」と聞くので、「もう終わったんだよ」と言ったら、「あら、平たくなっちゃった?」と聞いてきた。「うん、平たくなっちゃったけど、左胸はそのままだし、右側は悪いところを全部取ってもらったよ」と答える。

でも、正直一緒にお風呂に入るまでにはかなりの時間がかかるかもなと思っていた。わたしですらまだ見た目が慣れていないし、見るたびに衝撃を受けてしまうと思うから、Aくんを怖がらせないように配慮しないとなと思った。3年生の男子、もう一緒に入れるタイムリミットは迫っているというのに、こんなことで機会を奪われるとは…くやしい。

午後も映画観たらスマホゲームやってダラダラ過ごす。入院初日以来、2回目のコンビニに買い出し。ドレーンポシェットが隠れるようにロングワンピースを羽織った。いつもは混雑している1Fががらんとしている。そうか、土曜日だもんなと気づく。

午後からだいぶ晴れてまた残暑に戻ってきたよう。明日はAくんが来てくれるから楽しみだ。屋上庭園にいこうかな。

夜はさすがに食欲無し、ご飯をほぼ残してしまった。まったく動いてないから食欲もわかない。夜も映画を見続けて寝た。入眠剤はお守り代わりに置いといてもらったけど、飲まなかった。

2023/9/10(日) 入院5日目:子供が言ってしまった

朝は4:30起き。入眠剤使わなくても5時間ぐらい眠ることができたらしい。朝は家族と恒例のLINE電話。

朝食後、PCでネットサーフィンしていると夫からLINEが。昨日の授業参観の時に、保育園からのお友達ママから「今日はママ来るの?」と話しかけられて、Aくんが「お母さんはおっぱいのがんで病院にいます」と言ってしまったらしい、と。一緒に洗濯ものをたたみながら突然Aくんが言い出したと。ショック!!!!!!!チャイルドサポートの方にアドバイスをもらって、あれだけ話したのに。「絶対言うな」と言うと余計ハレーションを起こしそうだから、脅さず丁寧に説明したつもりだったけど、甘かった。聞かれた場合のシミュレーションをしておけばよかった。

夫も申し訳なさそうだし、Aくんも自己嫌悪で落ち込んでいるらしいけど(後で泣いていたと聞いた)、言ってしまったものは取り返しがつかない。わたしのやり場のない怒りはまったくおさまらない。誰にも言っていないのに。誰にも知られたくないのに。悪気が無いのは分かってるけど、秘密をなんだと思ってるんだ。夫に八つ当たりのLINEをしながら心を静めたいけど静まらない。もう本当に嫌だ。子供なんて信用しない。悲しくて泣いてしまった。「もう今日来なくていいよ」とLINEで言ってしまった。

とりあえず、夫と相談してAくんが言ってしまった友達のお母さんにLINE。事情を正直に簡潔に伝えた。乳がんになって手術を受けたこと、まだ入院中であること、誰にも言っていないから内緒のことと受け止めてほしいと。

「授業参観でお母さんたちがたくさん来てたから、ちょうど思い出してたところに聞かれたから、つい言っちゃったんだね。Aくんごめんねー」と返信があった。そうなのかもな、と思った。「もちろんうちの子供にも誰にも言わないよ」「全摘いいと思う」「お互い長生きしないとね」と温かい言葉もいただけて、このお母さんでよかったと心底思った。

後日、このお友達ママからはプチギフトとともに「元気になってね」というメッセージが郵便受けに入っていた。なんて優しい。シリアスになりすぎず、かといってクールでもなく、あたたかく励ますことができるような人にわたしもなりたいと思った。

昼食前に夫とAくんが談話室に。コロナの影響で12才以下の子供は病室に入れない。Aくんが不安そうな顔して待っていた。「よく来たねー」と普通に声をかけた。Aくんはわたしをいたわるように座らせてくれて、すぐにドレーンポシェットを見つけてびっくりしていたけど、「平たくなっちゃった?」と言いながら胸をさすってくれた。硬いバストバンドで巻かれているから本当の平らかは分からないはず。

「内緒のこと言ってごめんなさい」と謝ってくれた。わたしのことに限らず、この先も「言わないでね」と言われたことは守らないとね、と伝えた。

そのあと屋上庭園へ。暑い日だったけど、空と芝生がとてもきれいで走ったり転がったり裸足になったりAくんは汗だくになっていた。わたしも久しぶりにお天道様の日を浴びることができて、紫外線もなんのその、人間少しは太陽の光を浴びないとだめだなと思った。

少しの時間だったけど、楽しかった。家族とバイバイして病室に戻ると、もうお昼の時間。ベッドの上で一人伸びた冷やし中華を食べる。さみしいなぁと思った。

しかしドレーンが痛いというより痒くなってきて、かゆみの方がストレスに感じてきた。掻きむしりたい…ドレーンを固定しているテープを剥がしたい…

映画を観て、夕飯を食べて、映画を観て、寝た。今日も入眠剤は無し。

ドレーンポシェット見て夫はちょっと笑っていた

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