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子供に伝える(わたしだけの乳がん物語 #12)



伝える上で気をつけたこと

乳がんになったことは夫以外誰にも話さず、夫に対しても「痛いの嫌だなぁ」「お金かかるの嫌だなぁ」みたいな愚痴はこぼしたけれど、怖さや不安、八つ当たり含めてきちんと向き合って話したことは一度もなかったと思うし、これからもないと思う。

心配かけたくないのはもちろんだけど、何かを言ったところで事実は変わらないし、話を聞いてもらったからといって気持ちがすっきりクリアなんてことはない。ましてや胸を切除することの心身の痛みなんて人様とは本質的には分かり合えないと思っている。言ったところで仕方がない、これに尽きる。

そんなわたしが、チャイルドサポートの方との面談の最後に「残念」と口に出したら涙が止まらなかった。

「今まで多くも望まず、何かあれば自分も含めた家族の健康しか願ってこなかったのに、こんなことになって残念」

この気持ちは今後も続くと思う。でもこの”残念雰囲気”って周りの人にも伝播するというか、引き込む力を持っていると思うから、家族もろとも沈まないように、これは押し隠さないといけないなと思っている。

Aくんは小学3年生で夏休み中。毎日家族3人でべったりと過ごしていたけど、Aくんに伝えるタイミングと環境としてはこんな風に決めていた。

  • あと数日夏休みが残っている日に
     →変わらず楽しく過ごせることで安心してもらう

  • 朝方もしくは午前中に
     →時間に余裕がある、Aくんが夜にいろいろ考えないように

  • 話には入らないけど夫がそばにいること
     →事情を知っているお父さんもそばにいて、今までもこれからも態度が変わらないということを実感してもらう

  • ソファに並んでくっつきながら
     →実際におっぱいを見てもらいながら説明すること、体温を感じて安心してもらうこと

「うん、わかった」

ある日の朝、起きて朝食を食べた後、聞いて欲しいことがあるのとソファに誘った。

来週から入院して手術を受けることになっちゃったと伝えると、少しだけ間が空いて「なんで?」と聞いてきた。「ほら、覚えてるかな、前にお母さん…」と言いかけたところで、「胸のこと?」と覚えていたみたい。

おっぱいの中に何かできてしまって、いろいろ調べてもらったら悪いものだったみたい。それが、がんてものだったの。

がんのでき始め。これは何を食べたからとか何をしたからできたというより、おそらくお母さんのおっぱいの中で何十年も前から細胞分裂がうまくいかなかったみたい。ほら、はたらく細胞ってアニメがあったでしょ?あれだよ(はたらく細胞ありがとう)

でき始めのがんだけど、これから大きくなって体の中に広がって悪さしてきても困るから、手術で取りたいと思っているの。

(おっぱいを見せながら)がんはここら辺にあるみたい、ここからこれくらいのお肉を取り出すからおっぱいの形が崩れてしまうかな。その後におっぱいの中にもしかしたら目に見えないがん細胞が残ってるかもしれないから、放射線という強い光で毎日治療する必要があるみたい。

それでお母さん考えたんだけどね、この先おっぱいの中でまたがんができないように、手術で取って早くおしまいにしたいから、おっぱい全部取ってしまうことにしたの。そしたらおっぱいの中にまだがんが残ってるかなって心配ごとが減るじゃない?病院から帰ってきたら右側のおっぱいは平らになってこれぐらいの傷ができるけど、左側のおっぱいは今のままだよ。

傷口はやっぱり痛いと思う。でも治ったら今までのように脇の下や二の腕のお肉プニプニ触ったりできるよ(Aくんはわたしの体の柔らかい部分を触る、というか揉みしだいて「この肉やばいよ、どうするの?」と言うのが大好き。ちっ)

Aくんにお願いしたいことは2つあるよ。1つは、こうなったことはお母さん誰にも言いたくないから誰にも言ってないの。だって何もしてないのにがんになるしさ、入院でAくんやお父さんと離れ離れになるしさ、手術でおっぱいも取らないといけないし、絶対痛いし、お金かかるし、嫌だなと思ってるから言いたくないのよ。お父さんとAくんだけ。だからAくんにも言わないで欲しいの。もし、誰かに言いたくなったらお父さんかお母さんに相談してね。

2つめは、お母さんがいない間、お父さんと協力して自分でできることは自分でやるようにして、宿題や習い事を頑張ってね。タブレットやゲームばかりやっちゃダメよ。土曜日か日曜日は学校が休みだから病院に来てよね。会えない日はビデオ電話でお話ししようね。退院したらお母さんあんまり重いもの持てないみたいだし、右手も上手に使えないかもしれないから、少しの間だけどAくんに頼ってしまうと思うな。

一連のわたしの話をなんとも言えない、分かっているのか分かっていないのか、深刻にならないように頑張ってくれているのか、ずっとはにかんだ表情のまま聞いていたけど、最後に「うん、わかった」と一言、きっぱり言ってくれた。おっぱいを見て少し触りながら、「見た目じゃわかんないもんだね〜」とも言っていた。

おっぱいが無くなる姿の想像はできていないと思う。それはわたしだって同じだ。それでもがんという言葉を受け止めて、今までもこれからも家族3人の仲は変わらないことを感じてもらえたらなと思った。

肩の荷がひとつ下りた。湿っぽくならずに、誤魔化しはせずに、ちゃんとこれから何をするのか伝えられたと思う。実際に入院期間や術後の日々を過ごしたら、やさしいAくんは心配しちゃうと思うし、お互い悲しくなることもあると思うけど、わたしはわたし、お母さんはずっと変わらないよと早く証明したい気持ちになった。

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