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気ままに神経科学

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ひとの心の仕組みや知覚体験について、主に神経科学を参照しながら書いています。 cover photo credit: https://www.flickr.com/photos…
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#神経科学

ニューロダイバーシティと神経科学の新たな接点 — 計算論的精神医学について(前編)

私は現在、工学系で神経科学・電気生理学を研究しているのですが、今回は神経科学の新たな動きの一つである計算論的精神医学(computational psychiatry: CPSY)と呼ばれる分野と、近年注目されている「ニューロダイバーシティ(神経多様性、脳多様性)」の接点について記事を書きたいと思います。 私は修士1年の学生であり、普段は非常に範囲の限定された問いに絞って研究を行っているに過ぎません。したがって、計算論的精神医学や現象学、当事者研究において私は完全な初学者で

神経科学から考える、多様性社会における精神的な「健常」と「異常」の境界線の哲学

僕は神経科学を研究している、つたない学部4年生ですが、神経科学を勉強していると、「精神疾患」と「健常」とみなされる境目は、人間社会により、実に恣意的に決定されているのだなと実感します。 僕は大学以降、理論物理や神経科学に興味があり、人間の知能とか情動を、脳内の化学反応 —— 究極的には物理法則に還元して考えることが増えました。 今世紀になり、例えばうつ病といった心の症状には、医療的なアプローチが必要であるという認識が一般社会でも常識になりつつあり、個人の意志を前提とした「