私は4歳のころからピアノを習っていた。地元の個人経営の先生に12年お世話になった。何か大きな大会を目指すわけでもなく2年に1度の発表会で披露するくらい



2020年のこと、当時高校2年生で次の年には受験を控えていたため今回の発表会をピアノ人生の集大成にしようと考えていた。「前回の曲ほど難易度は高くないけど、あなたにはこの曲が似合うと思うよ」と楽譜を開くなり弾いてくださった先生の音色を聴いて鳥肌が立った。ステージの上で演奏する自分の姿を想像して胸がときめいた。教室から家に帰る車内でもYouTubeで演奏を聴いていろんな思いを巡らせていた


でも実際は思い通りにいかない、前回の発表会で重大なミスをしてトラウマ気味の私はとても不安だった。そんな時に偶然観たのが「 羊と鋼の森 」という映画。好きな女優さんが出ているというごく単純な理由で


いざ観てみると私よりも経験年数が浅いはずなのにまるで本物のピアニストのように丁寧に美しく弾いているのだ。湧いてきた感情は「 悔しい 」だった。もし私があの女優さんの立場だったら同じように役として弾けただろうか、一体どれほど努力したのだろう。約半年で仕上げた彼女の腕前は12年という私のピアノ人生を完全否定されたようだった



それからというもの今まで以上に練習に熱が入り、ひたすらピアノに没頭した

楽しかった

もう少しで辞めるというのに、義務のように続けてきたのに、今さら楽しさがわかってくるなんて。結局流行りのウイルスによって発表会は延期となり不完全燃焼のまま教室を去ることになった。後悔ばかりが残るが無我夢中に弾き続けた日々は財産だと思う


ふと思い出しただけでこんなに長々と ... それくらい私にとって大切な記憶。またピアノ弾きたいなと綴っているいまもあの時の曲を聴いている。静かで穏やかな夜にぴったりな、月を眺めたくなるような曲



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