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わたしにも出来ること

今夏友人からちょっとしたアルバイトを頼まれました。

それは我が家の近所にある 

人工透析に通う95歳のおばあちゃまの手を握る

という仕事でした。 

決して身寄りのない方でもあられないし、私より少し若い位の甥っ子がずっと付き添っていたらしいですが、どうやらお金を払って他人にその任務を請負って欲しい、ということでした。

私は身体が大きく、一見介護系のお仕事に向いていそうで、あまり気の利く人間でもないし、大雑把な性格は無理だと十分自覚していました。それに祖父母ともずっと離れて暮らしていたので、そもそも老人とふれあう機会がほとんどない人生でしたので、本当に私で大丈夫か?そもそもそんなものが仕事になるのか?そんなことでお金をいただけるのか?と最初はかなり訝しく思いました。

初めて入った透析ルームには老若男女実に様々な方がいましたが、私の担当したおばあちゃまは最高齢の96歳。(関東大震災の年生まれ!)身体こそ思うように動けないものの、会話ができる程度に頭もハッキリしていていらっしゃる方でした。だからこそ1日おきの人工透析の時間は3時間半。ベッドでじっと本を読むでもなく過ごす時間はきっと退屈かつご不安であったと思われます。「途中で嫌がって暴れたことある」という事前情報に緊張と恐る恐るの最初のご挨拶。初対面の車椅子のおばあちゃまは眠っているのか、聞こえているのかわからない無反応でしたが、看護師さんに介助され、さて透析開始。

私は薄い掛け毛布に手を突っ込み、任務であるおばあちゃまの手を軽く握りました。「おばあちゃんの手って冷たいんだ」と初めて触れる老人の手の感触を知りました。
おばあちゃまは「あなたの手は温かいねぇ」とうわ言のように呟いて下さいました。あとは時々寝返りの介助をしたり、背中をさすったり‥
友人に聞いた通り、5分とたたず同じ話しをしたり、おばあちゃまはただただ昼ごはんに何を食べるかを楽しみに透析の時間をやり過ごしている事がわかったり。お元気の無い時や中々時間が過ぎない事にイライラされている時は少し強めに手を握ったりすると、なんとなく弱い力で握り返されたり。

3時間半はほぼ毎回同じパターンで過ぎて行きました。

おばあちゃまは日によって、もはや生気が全く無い日やとても嫌々いらした日もありましたが、朝クリニックに来た時と透析を終えて帰る時には別人の様に目力や姿勢が変わりました。

このアルバイトは始めて約2か月で終了となりました。
おばあちゃまは天に召されたのです。

本当にただ手を握っているだけのお仕事でしたし、残念ながら短いアルバイトとなってしまいましたが、
ヒトは誰かに手を握ってもらうだけで、何だか安心できるんだ」と知った時、私は驚き、同時に人間という生きものが少し愛おしく感じることができました。

誰かの気持を少しでも和らげること。
私にも出来ることをひとつ知った体験となったのです。

※※※※※
今こうしてパソコンに向かっている私の両脇には我が家で育った仔犬たちが頭を私の腿にくっつけて眠っています。

こんな私でも、私以外の誰かに安らいでもらうことが出来ることを教えてくださったおばあちゃまとこんな素敵な仕事を体験させてくれた友人に感謝の気持でいっぱいです。

#いま私にできること

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