あなたはあのフクロウを知ってますか?
幸せのフクロウ
飼うと必ず幸せになれる
ただそのフクロウの餌は、あなたの悲しみ
悲しみを食べて生きるフクロウ
幸せと不幸をあなたは家に招き入れる
なにもない人生ならば
少しはましになるのでは?


「おはようございます」
「みなさん、今日も変わらず」
日々は同じことの繰り返しで、きっと老いるまでこれは変わらず、ただ過ぎるのを待つように、私は生きている。
若い頃のように変化を求め、楽しみを求め、笑い合う仲間を求めて、さまよい歩くことは無くなった。
もう何もいらないことに気づいてしまってから、一歩も動き出す気力は無くなっていた。
それは俗に言う心の病のようなものだった。
しかし病と言えるほど身体は衰弱も疲労もしていない。嫌になるほど健康で健全な身体は、ときに煩わしい。
「あなたには心がないのね」
「そうであればどんなに楽でしょうか」
いっそ心まで無くしてしまえたら、感じなくていい孤独や絶望を通り過ぎることが出来るのに。
いつだってそれに突き当たっては膝から崩れ落ちるように心が砕ける。
何度も、何度も、いくらでも。
人は孤独を感じられるのだ。

「山に行っておいで」
「私がですか?」
「何も無いのよ。あそこには」
まるであなたのよう。
「もうさまよい歩くのはやめました」
「迷わないわ。あなたは鳥を探しに行くの」
「鳥?」
「あの鳥は、あなたでないと見つけられないはず」

言われたことをするだけ。
ただ、そうしていれば時間が過ぎて、やがて終わる時がくる。
それをただじっと待っているんだ。
私にはそれしかないから。そうするしか、もう生きていく術がない。

山には何も無いと言われた。まるで私のようだと。
山は山であるために、木を生やし根を張り、雨を吸い込み蓄え、小さな虫や小鳥やたくさんの動物を育てている。
何も無いわけがない。豊潤な大地。潤った花木。すべてが満たされて、ここで始まり終わっている。
この一部にさえなれたら。
このただ生きる苦しみから開放されるなら。
どんなにいいだろう。

フクロウの羽根を拾った。
それが何故フクロウの羽根だと分かったのか、自分でも分からない。
ザワザワと森が鳴る。前後左右が分からないほど、緑は茂っていた。
このままこの緑に飲み込まれて、森の一部になってしまいたい。
いつだって夢を見てしまう。
この草むらを抜ければ、誰も知ることのない幸せな国にたどり着けるのではないか、そんな、ありもしない空想。
ちいさな石が脚に触れて、現実が身体を覆うように現れる。
フクロウを見つけた。いや、私が見つけられたのかもしれない。
瞳が細められて、私を品定めするように見つめている。
全てを見透かすような透明なガラス玉のような眼球が、この姿を移す。


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