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23曲目: The Dave Brubeck Quartet「Take Five」と幻のシングル・ヴァージョンについて、など

曲名: Take Five
アーティスト: The Dave Brubeck Quartet
作曲: Paul Desmond
初出盤の発売年: 1959年
収録CD:『タイム・アウト』(SRCS 9631)
同盤収録時の邦題: テイク・ファイヴ
曲のキー: Ebm(変ホ短調)

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ヒットしていた時期にはアチコチでしょっちゅう耳にしたシングル曲が、いつしか廃盤になり、それとは差異(編集違い、リミックス、演奏自体が異なる、など)のあるアルバム・ヴァージョンにとって代わられて、シングル・ヴァージョンの方は聞かれなくなるという現象が時々起こる。
CDの編集盤やボーナス・トラックなどにシングル・ヴァージョンが収録されることもあるが、なぜかそうはならず、今では幻になってしまった曲も少なくない。

デイヴ・ブルーベック・カルテットの「Take Five」は1959年に録音・発売された曲だが(少なくともアルバム・ヴァージョンは)、70年代になってからも日本でシングル盤が売られていた。筆者が覚えている限り、それは長いドラム・ソロをフィーチャーした5分半弱のアルバム・ヴァージョンと同じだったと思う。
しかし、最初に発売されたシングル盤に収録されていたヴァージョンもそうだったのか、筆者はずっと疑問に思っていた。

期待していた『テイク・ファイブ(レガシー・エディション)』(2009年発売)には、この曲のシングル・ヴァージョンどころか別テイクも収録されず、代わりにニューポートのライヴ録音だけだったので、購入を見送ってしまった。この2枚組や2023年に再発(何度目?)された通常盤に封入されているであろう解説で、シングル・ヴァージョンについて触れている可能性もあるが、筆者は確認できないままである。

2024年2月現在、シングル・ヴァージョンは配信すらされていないようだが、身近なところで解決し、聞くことができた。Nabeさんという方のnoteである。

記事中にYouTubeのリンクがあったので、早速聞いてみた。約3分の長さで、演奏もまったく別テイクだった!
ジョー・モレロによるドラム・ソロも、あの「タカタカタカ...ドンッ!」などは一切なく、違う感じのソロをちょっぴり披露しただけでテーマに戻ってしまう。

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「take five」とは慣用句で、「ちょっとここいらで一服しようや」の意味だそうである。英語圏では今でも「take five」という言い回しを普通に使うのか分からないが、「一服」という語句の方は茶道や愛煙家の間以外では死語の世界へ旅立ちそうに思える。

英語には「Wait a minute!」(1分待ってくれ)とか具体的な時間を言うフレーズが多いが、どれも「少し、ちょっと」の意味と捉えてよさそうだ。
ちなみに、ポール・デスモンドは二匹目のドジョウを狙って「Take Ten」という曲も出している。

話を戻すと、もちろん本曲は5拍子の曲だから、「five」に引っ掛けてこのタイトルを採用したのだろう。
録音セッション時は混乱しなかったのかも気になる。スタッフが「レディ? OK、「テイク・ファイヴ」テイク・ワン」とか言って笑ってそうだ。

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バンドのアルト・サックス奏者であるポール・デズモンドが作曲したテーマのメロディはあまりにも有名で、普段ジャズを聞かない人にも知名度が高い。
それゆえ、アドリブや別アレンジなどの汎用度が低く、どんなに頑張ったカヴァーを作っても、「やっぱり本家には...」となりがちである。その点ロックやポップスの名曲群と立ち位置が近いように思う。
しかし、メロディが意外と半音を使った複雑なものである一方、本曲の伴奏はシンプル極まりない。
テーマの途中でメロディが変わって「タラッタラー、タラララ」となるところ(?)だけコード進行も変わるが、それ以外はテーマであれ、ソロの時であれ、ピアニストのデイヴ・ブルーベックとベーシストのユージン・ライトはコード2つが交互に出てくる1本道の伴奏をひたすら続けている。
特にジャズのプレイヤーは途中でフレーズを変えたり、アドリブを入れたりしたくなるのでは、と考えてしまうのだが、二人とも辛抱強い。

この曲の土台となる「ズチャッズチャ、ズーチャ」という5拍子のリズムパターンに元ネタがあるのか、筆者には知る由もないが(ホルストの『惑星』などが少しヒントになっているかも?)、60年代ロック界の5拍子曲には影響を与えていると思う。
ザ・バーズの「Get To You」と「Tribal Gathering」、クリームの「What A Bringdown」、ブラインド・フェイスの「Do What You Like」など。

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筆者の持っているCDには、録音に関する情報がまったく掲載されておらず、プロデューサーのクレジットさえない。
『ジャズ超名盤研究』(小川隆夫:著、シンコーミュージック・エンタテイメント)という本をめくってみると、知名度にふさわしく1巻の18番目に掲載されていた。
プロデュースがテオ・マセロで、30th Streetにあったコロンビア・スタジオ(通称:ザ・チャーチ)で録音されたようだ。

エンジニアはフレッド・プラウトだったらしく、とても1959年の録音だとは思えないサウンド。特にドラムスはライドシンバルが美しいし、ソロ中のバスドラムの「ドンッ!」にはビックリする。ラスカルズのディノ・ダネリが、よく立ち上がってバスドラムのペダルを踏みつけていたが、そんな感じすらする迫力のある音に仕上がっている。

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前述のとおり、『タイム・アウト(レガシー・エディション)』には「Take Five」の別テイクは収録されていない。しかし、2020年になってなぜかデイヴ・ブルーベックの遺族レーベルからアウトテイク集が出た。
テーマのメロが少し違う(少し大雑把な感じ)ので、まだ初期段階のテイクだと思われる。しかし、ジョー・モレロのドラムスはこの時点で全開である。最高だ!

さて、ここで筆者が推測したのは以下の3点。

1.この時に録音されたアルバム・ヴァージョンは、最初からドラムスをフィーチャーするつもりで、録音スタッフも交えて音との録り方なども含めた綿密な打ち合わせと準備をして本番に臨んだ。

2.ただし、アウトテイクのドラムソロは文字どおりソロになっており、ピアノとベースの伴奏が入っていない。
後のライヴでも伴奏は入れず、映像を見てもデイヴ・ブルーベックは見物、もとい、見守っていることが多いのだが、ソロ中も5拍子を維持できるよう、ガイドとして「ズチャッズチャ、ズーチャ」を入れることに(アルバム・ヴァージョンの収録前のどこかで)決めたのではないだろうか?

3.Nabeさんのnoteでも指摘されているように、アルバム・ヴァージョンではドラムソロの前にテープ編集された形跡がある。デイヴ・ブルーベックのピアノソロがカットされたのかもしれないし、別のテイクとつないだのかもしれない。
もっとも、アウトテイク録音時にはピアノソロを入れるつもりだったが、採用テイクに至るどこかの時点で入れないことに決めていた可能性もある。
この辺、想像を膨らませることはいくらでもできそうだが、証拠が出てこないと結論は出せないと思う。

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話をまとめると、1961年にヒットチャートに入ったのは、シングル・ヴァージョンと思われる。
しかし、時が経ちシングルが廃盤になっても、アルバム『タイム・アウト』の人気は衰えることなく、以降シングルが再発されることになった時も、アルバム・ヴァージョンが収録されることになったのではないだろうか? レコード盤のプレス技術が進み、5分半なら通常のシングル盤で収録可能になったこともあるだろう。

前述したシンプルなバッキングを繰り返すこともそうだが、音の聞かせ方にしても、「インプロヴィゼーションによる自然発生的な音楽こそジャズ」という概念からは既に遠く離れてしまっている。

しかし、彼らは決して予定調和なサウンド志向のみのグループになったわけではなさそうだ。
1967年末に録音された解散コンサートのライヴ盤『ゼア・ラスト・タイム・アウト』における「Take Five」では、ドラムソロを披露していないのだ(その前に長いドラムソロをフィーチャーしたため)。この辺、やはりジャズ・マンだなあと感じるところである。

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