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鼎談「唐津から― 空間とものづくりについて」陶芸家 竹花正弘 × 関電不動産開発 中平 × LAPIN ART 坂本

edit&text 中平英莉  photos 坂本大

「わたしの部屋」この企画がうまれるきっかけとなった地「唐津」へ訪れ、黒唐津のエピソードを振り返り、空間とものづくりについて、そしてこれからの暮らしのムードについての考察まで、発想のきっかけをくれた陶芸家を囲み3人で語り合いました。以下、3人のトークです。

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黒唐津のエピソード

中平:今回、唐津に坂本さんと私で来たのは、「わたしの部屋」企画という焼物などの調度品を起点として住宅のひと部屋を作る企画をしているのですが、私が竹花さんの窯へ見学に来て聞いた言葉がきっかけでした。黒唐津について私が目にしていた現代の作家さんが作るものはマットな肌合いなものが多くそれが黒唐津だと思っていたのですが竹花さんの作る黒唐津はがあったので「これはなんですか?」と質問させて頂きました。

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竹花現代住宅は意外と明るいので今のマットブームのようなものがあるのではとお話したと思います。昔の住宅だと暗く、自然光や夜になると蝋燭や行灯の明かりで見る状態だとマット調のものは沈んでしまってあまりきれいではないのではと思います。

中平:竹花さんが作陶されているのは現代で、現代の住宅はやはりまだまだ明るい家が多いですが?

竹花:ふつうに自然光の中で見たときにかっこよかったり、料理屋さんで明かりのトーンを落とした状態で料理が盛られて出てきた時は意外と艶があるタイプの方が料理が映えたり器がかっこよかったりする。それでいいのではと思います。実際汚れにくかったり利点も多いですし。

坂本:わかりやすいですね。

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桃山時代の部屋の再現ではなくスタジオの様な部屋

中平:竹花さんのお話をきっかけに、改めて現代の住宅を問い直すという視点に立って艶のある黒唐津が焼かれていた、古唐津と呼ばれていますが、桃山時代の住宅の雰囲気、具体的には土壁・障子の明かり・畳などを現代の住宅に取り入れたら逆に新しいのではと考えました。会社として、住宅を通じて住まう人の自己実現を叶える企業姿勢の中で何かできないか模索していたということもあり、阿佐ヶ谷ハウスという自由設計対応の新築分譲マンションの一室を自己実現のモデルケースとしてものを起点として調度品が美しく見える部屋づくりを提案しました。しかし、好きとは言え私は焼物に関して素人ですので、プロという立場でギャラリストである大さんに参画してもらいました。そして、大さんが提案してくれたコンセプトが今の「わたしの部屋」の骨子となっています。

坂本:関電不動産開発に行き会議が開かれました。その中で僕が住むのであればどんな部屋をつくりたいかと聞かれたので、中平さんの想いを踏まえて、スタジオの様な部屋を提案しました。部屋全体、焼物だけでなく家具だったりキッチンだったり置いてあるものを自然光でも照明がついてもベストな状態で見たい。そのように考えたら、スタジオの様な部屋、自分の目で焼物や家具などをベストな状態で撮影できる部屋がほしいと提案させて頂きました。
壁は傷が目立ちにくい凹凸のあるクロスではなく、撮影するのであれば塗装の壁がいい。光の質感が違う。床はフローリングではなく・・

竹花:天然木になっていくということでしょうか?

坂本:それもあると思いますが、僕の場合は、ヴィンテージマンションに住んでいた好きなスタイリストの部屋や雑誌に載っている好きな雰囲気だと、白やブラウン・グレーの明るめカーペット敷きで。そこにアンティークのヨーロッパのテーブルを置いたらすごくかっこよかったんですね。それにイタリア製の現代のカッシーナの椅子などを置き、家具も古いものと新しいものを合わせる。そして最後に器をのせてきれいに見える。
眺めて自分が楽しむことができて、最近リモートワークが増え家でも仕事のモチベーションをあげていきたい。家でもテンションを上げていく、ある程度緊張感のある部屋。それをいま僕たちで作って行っているとうところです。

竹花:贅沢な空間ですね。

唐津焼について

中平:焼物を作る上で、食卓のイメージや暮らしのシーンを切り取る形で焼物ができていたりするのでしょうか?

竹花:一番贅沢なのは個人個人、空間の状況が違うじゃないですか、部屋の広さであったり照明の具合であったり、料理のスタイルであったり。本当は全てオーダーメイドするのは一番はまるものができるんですよ。

中平:とはいうもののなかなか難しいですね。

竹花:基本ベース、唐津焼のジャンルだと和食ベース、でも現代生活を考えるとちょっとパンにも使えるようなということも考えたりします。そういった形で、若干形の作り方やタイプが変わってきたりします。基本は料理に合わせた形です。

坂本:唐津焼ベースということですが、今さらですが、なんで唐津焼だったのですか?

竹花:単純に初めて見たとき唐津ってとても新鮮だったんです。唐津や九州でない人間にとって洋食器のような磁器の器を使うのが馴染みがあったので、新鮮でした。あと、古いものを見て新鮮でした。ものって工業製品みたいになっていくじゃないすか。それ以前のものがいきいきとして新鮮でした。

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中平:竹花さんは東京のご出身で唐津で作陶されている。方や大さんは唐津で生まれ育ち東京でギャラリーとし器を売っている。真逆ですよね?

竹花:真逆のことを感じているのでは・・

坂本:だけれども一緒に仕事をしているって不思議ですよね。

曖昧なバランス

坂本:本当に、産業革命じゃないけど、同じものをたくさん作り始めた19世紀終わりから車だったり家具だったりそうですけど、いわゆる工業製品になっていく「前」のもの。

竹花:中でも焼物を見ていると磁器がばーっと出回っていくころからきっちりしたものが増えているように思います。それ以前のものはちょっと崩れたというか人間味のあるタイプの焼物が多かったのかな。

坂本:有田で磁器がはじまってきてからと、それよりも昔のものということですよね。

中平:竹花さんは人間味のあるものを・・

竹花:とてもわかりにくい方向にいっているとは思うけれども、普通にシンプルに立ち姿のいい状態の方が飽きもしないのでそっちの方に行っています。

中平:作られているものはすごくシンプルですよね。工業製品のような形だけどぜんぜん違うという・・

竹花紙一重なところで結局、生活スタイルとして変わって行ってああいう形になっていったのでいいところもあるので全てが悪いわけではない。もうちょっとこうなったらいいよねというぐらいの感じではある。

坂本:すごく見えずらいところではあると思うんだけど、有田焼もこうきっちり、まあ、藍柿右衛門ではないけれども、パチッとつくってそれも手づくりなんですけれども。それよりもちょっと前ってこの湯呑もそうですが、唐津もきっちり作っているんだけど、どこかにふわっとしたところがあって、それがなかなか言語化できないのでものでみんなもので表現することになるんだけど、意味はすごくよくわかります。竹花さんが伝えようとされていることは紙一重なところですが、よくわかります。

竹花:とてもわかりにくいのですが。中国の器ってすごくキッチリカッチリしているイメージですが、実際に陶片なども手に取ってみると、きれいなタイプものものでも全て微妙に作り手の痕跡が残っている。指の後だったり、爪のひっかきだったり。そういう微妙な跡が好きだったりする。それはそのスタイルだからちょっときれいに作りましたよ、という。あと、ざっくばらんにひいただけの李朝の器もあるだろうし、それはそのスタイルとして受け取っているので、その中でどれを選択しどう作るかは考えながらやってはいます。シーンに合わせて。それはどういう場でどういう風に使うかに合わせて。基本的にお客様に出すときはちょっときっちりしましょうか。家で使うだけだったらちょっとざっくりしましょうか、というぐらいに分けてやっていますね。

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坂本:こういう話あまりしたことなかったのですごくわかりやすかったです。その微妙なラインってなかなか説明しずらい、ものをよく見ていたらなんとなく、古い唐津だったり初期伊万里だったり、キッチリしているのとはちょっと違うというのはものを見ていたらみんながなんとなく共感できるけど無理やり言語化するとまた違った方向に行くかもしれない。だから、これですってわかりにくいんだけど、だから焼物があるでもいいんじゃないかなと思う。

竹花:意外と使われるシーンと言われたように、そのものそれぞれでスタイルが微妙に違うんです。焼物を見てみると。民芸と茶陶、とあるような感じで。また茶陶がわかりにくい世界だから、民芸を取り込んで表現していたり、かっちりばかりでなくちょっとくずしたものを取り入れて、親近感、場を和らげるタイプのものなどもありますし。昔のものは見えにくいけどやっていることは表情豊かで隠れている

中平:唐津焼って茶陶だったり、懐石料理の様なお店で一人一皿順番に出てくるタイプの器が多いように思いますが、竹花さんの作られる器は日常生活で使いやすいものも多いですよね?

竹花:茶陶ばりばりのはあまり作っていない。

中平:唐津焼と生活の器のバランスはどのように考えられていますか?

竹花:もともと見立てのタイプの方が好きなので、ちょっと砕けている、でも料理屋さんでも使えるようにちょっとキッチリもしている。そういうわけのわからないところに行っている。

中平:そこはシンプルに好きだから?

竹花:こっちでも使えますし、こっちでも使えますよという。要はそこまで気にしなくて使えますよになるじゃないですか。見立てのタイプのラフすぎるのも落としながら、ちょっとラフ。洋服で例えるならば、ちょっと高級なお店にも入れますよ、けど普段でも着れますよみたいな。素材とシルエットをよくしてでもちょっとカジュアルでも使えますよ。やろうとしているのは。そういったところを狙っています。

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「わたしの部屋」との共通点

竹花:桃山時代、陶器の器を使っていたのは上流階級だけ、あとは木の器を使っていたんだけれどね。でも、現代は総中流社会だからこのバランスでいいんじゃないか。

中平:「わたしの部屋」が狙っているムードと共通点を感じます。「緊張」と「緩和」のバランスにこだわっています。

坂本:そうなんですよね。収納量を確保するようにしています。収納が少ないと家具を後から買わないといけなくなってバランスが崩れていくので内蔵収納にしている。片付いていて見たいもの・見せたいものだけが出ている状態だと緊張感が生まれます。散らかっていて手に届く範囲の中で何でも取れる、ゴローンとしてリモコンが取れるというのは心地いいのかな?と思ってしまいます。心地よさとは違う。というのは、リモートワークとか家でテンションを上げていかないと行けないシチュエーションの中で緊張感は必要だけどリラックスもしたい。それが共存しているような部屋を作りたい。

竹花:けっこう近いかな。僕らは個人の仕事だからやりたい放題しているところはある。企業の仕事だと多少は制約があるんだろうけど。

坂本:だからこそやりがいは感じています。


後記

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この取材の目的、手の内を明かすと、「わたしの部屋」企画が何をしているのかわかりづらいという課題に対し、興味を持ってくださった方に改めて嚙み砕いて伝えるということでした。そしてメンバーのパーソナルな部分をお伝えし親近感を持っていただくこと。いかがだったでしょうか?
部屋があり、家具があり、器があり、料理のスタイルがあり、暮らしがある。そのムードをコントロールすることこそが自分らしさであると改めて実感しました。坂本・中平ともに竹花さんの作る焼物が好きなので、好きなものが同じ3人が集まっているからこそという面があるにせよ、焼物も部屋づくりも共通の時代背景があるのではと気づき、興味深く感じました。 

おわり

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陶芸家 竹花正弘
1974年 東京生まれ
2000年 唐津のあや窯にて3年間修業
2003年 唐津市厳木町に割竹式登窯築窯
2004年 初窯焚き



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