挿花家・雨宮ゆかさんに聞く、植物ととなりあう暮らしづくり。
鼎談
挿花家 雨宮ゆか × LAPIN ART 坂本大/関電不動産開発 中平英莉
都会のマンション暮らしであっても、季節の移り変わりを感じながら暮らしたい。住空間に花を取り入れるだけで、毎日は、彩りにあふれた瑞々しいものになるはずです。
今回は、豊かな自然が残る東京近郊で花と緑とともに暮らす挿花家の雨宮ゆかさんのご自宅を訪問。前編では、植物とつながる暮らしのヒントをうかがいました。
暮らしのそばに植物を
中平:雨宮さんのご自宅は、窓を全開にすることでリビングと庭がつながる作りになっているんですね。自然光が気持ちいいです。
雨宮:高さの違う植物が、外からの視線をさえぎってくれるので、開けっ放しでも気持ちよく生活できるんです。カーテンは使っていません。日差しが特に強い日には、布を吊るしたり、外にタープをかけたり。風通しを損なわないようにしています。
坂本:いろいろな種類の草花を少しずつ植えているのでしょうか。
雨宮:葉の大きなもの、花をつけるもの、地を這うものというように性質の違うものを植えるようにしています。それぞれの花が咲いているのは短い期間なので、葉にみどころのある植物を多く選んでいます。葉に注目すると、足元の小さな草にも目を向けるきっかけになりますし、日々変化があって、見飽きないです。
坂本:季節によって印象が変わりそうですね。
雨宮:そうですね。見ごろの時期が違うものを植えているから、一年中、庭のどこかしらが旬を迎えている感じ。新緑や花の盛り、紅葉、そして味わいのある枯れ草まで、四季折々の景色を満喫しています。
バルコニーにおすすめの寄せ植え
雨宮:庭のないマンション空間でも、日常的に四季を取り入れる方法はありますよ。例えばこれは、日陰が得意な植物を集めた寄せ植え。北向きの場所など、あまり日が当たらないところでも育つのがポイントです。
中平:寄せ植えと聞いて、花壇のように大きな花のある華やかなものを想像しましたが、それとは少し違いますね。こんなにおしゃれな寄せ植えができるとは!
雨宮:ヤマアジサイ、斑入りドクダミ、ギボウシ、ナルコユリ、ゲンペイコギクなどを植えています。7~10種類くらいが扱いやすいですよ。
中平:繊細な野の花と小さな葉ものが、お互いを引き立てていて素敵ですね。穏やかな風にもそよぐモダンな寄せ植え。マンションのバルコニーや窓際にも合いそうです。
坂本:取り合わせにコツはありますか?
雨宮:1.背の高いもの 2.地を這う低いもの 3.小花 4.季節によって色を変えるもの。この4つを意識して、奥に背の高いもの、手前に低いものを植えると、小さな庭のように楽しめると思います。見頃を過ぎたり、枯れてしまったら、一年草をプラスしたり、好みの小石を敷いて新たな景色を作ればいいんです。
部屋に合わせて植物を小さく育てる
坂本:この鉢でいうと背の高いものは、ヤマアジサイですね。
雨宮:ナルコユリも背が高めですね。背の低いギボウシとドクダミは、縞模様や斑入りの葉がいいアクセントになるでしょ。小花のゲンペイコギクは、咲き進むに連れて白からピンクへと変化するの。育ちの早い植物も、寄せ植えにすることで成長をうまく抑えられます。鉢のサイズに合わせて大きくなるのも寄せ植えのいいところなんですよ。
坂本:寄せ植えにすると植物があまり大きくなり過ぎない。なるほど、限られたスペースに飾るのにちょうどいいですね。
雨宮:マンション暮らしの方は、大きめの鉢で気に入ったものを見つけたら、手に入れてみて。ひとつの鉢で複数の草花を楽しめますから。花が咲いたり、茎が伸びてきたなと感じたら、切って水に挿して、部屋に飾ればいいんです。
中平:自然の恵みを手軽にお部屋の中に取り入れることができますね。
収納の一角を花の定位置に
雨宮:こんな風に食器棚の中に飾るのもいいですよ。
中平:わあ、かわいい。花器はアルミのカップですか?
雨宮:そう、古いお菓子型です。寄せ植えから五色カズラとツボサンゴを、庭からへびいちごを摘んで加えました。
中平:収納の中を飾るためのスペースにするのは、いいアイデアですね。
雨宮:日があまり当たらない場所なら、葉ものだけでも。その場合は、濃いグリーン、薄いグリーン、斑入りのものというように、トーンを変えると気持ちのいい景色ができます。
中平:ペットを飼っているとか、小さなお子さんがいる方にとっては、棚の中は安全でいいですね。
何も置かない場所と空間を確保する
坂本:でも収納があると、つい荷物でいっぱいにしてしまいますよね。
雨宮:そこを頑張って、何も置かない場所をキープする習慣をつけると部屋がすっきりしますよ。花を飾るかもしれないと思って、一角でいいから棚や壁を空けておくのはどうでしょう。広い白壁をバックに花器を置いて、ヤマアジサイとモミジをいけてみました。
中平:そう言われて改めて見てみると、雨宮さんのお部屋は、ものを置く場所と置かない場所がはっきりしていますね。
雨宮:夫が写真家で、自然光のスタジオも兼ねてこの家を建てたんです。だから必然的に物を置かなくなりました。
中平:何も置かない空間があると、忙しい日々の中でも気持ちがリセットされますよね。
雨宮:空間に目を向けることで、花をいける時も、周りとの調和を大事にするようになりました。「どの空間で、どの器に」という「場」を考えてから花を選ぶ方が、バランスよくいけられることに気づいたり。
坂本:花材やものありきで考えると、どうしてもごちゃごちゃしてしまう。暮らしの統一感が崩れていくのかもしれないですね。
雨宮:好きだという感覚を大事にするのは、いいことだと思うんです。でも実際は、自分の好きなものってよく分かっていなかったりする。そういう時には、自分の住まう空間を思い浮かべて合うかどうかを意識するといいかもしれないですね。
後編では、部屋の中に四季の移ろいを取り込む飾り方についてうかがいます。
挿花家 雨宮ゆか
東京都大田区で、日常の花を生ける教室「日々花」を主宰。北鎌倉東慶寺にて、花教室の講師を務める。
植物と暮らしの関わりをおもに、雑誌、本などで活動中。各地で植物に関するワークショップも行う。
■ 日々花 ウェブサイト
構成・文 衣奈彩子
写真 雨宮秀也
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