チルチルとエトワール

〜エトワールの回想③〜

チルチルはどこからどう見ても女の子だ。

艶のある髪はあごのあたりまでの長さ、うつむいた時に見える首の細。

いちばん長さのある人差し指に、寄り添うように並んだ足のゆび。

華奢な造りの肩の関節、すべてが女の子の象徴のような佇まいだ。

おまけに鼻歌を歌いながら花を編む。

これ以上ないくらいな「オンナノコ」。


「クツってなぁに?」
その日も彼女は、こちらを見ずにこう訊いた。

ぼくは黙ってチルチルの目の前に自分の足先を差し出す。

チルチルが覗いていた水たまりみたいに小さな池と、チルチルの視線のあいだに。

そこでチルチルは驚いたようにぼくを見上げたので、ぼくは少し恥ずかしくなった。

「足のゆびが…」

チルチルはその白い中指と薬指の背をそっと靴に置いて、撫でさせた。

「足のゆびが全部くっついてしまうね。くるしそう」

ぼくはわらった。
すると、チルチルはぼくを見上げてすこし目を細めた。

「エルもわらうんだね」


「どういうこと?」

「わたしは石やお花がわらうことは見て知っていたけど、ニンゲンがわらうところは見たことがなかったの」

ぼくはまたしても驚いたが、なんとなく、驚きを隠して会話をつづけた。

「チルチルの摘むお花はどう?土からはなれる時にもわらう?」

「わらう子とわらわない子がいるわ」

「わらわない子は痛いからなのかな?ちぎられて…」


さらさらと風がそよいだ。
ぼくがはじめて(はじめて?)この場所に来たときみたいに、靴越しにどこかしら温度が変わったのを感じる。

海面ほどではない、ゆっくりとした細やかな振動が、その場所の地面を伝ってゆくのを感じた。

チルチルはスカートを整えながら立ち上がり、編んでいた花に目を落としてこう言った。

「わらう子もわらわない子も、痛いのよ」

「その星と約束をした者は、その星から離れる時、みんな痛いの 約束をやぶった時にも」


チルチルは顔を深く下げたまま声は小さくなっていったので、ぼくは泣いているのではないかと少し動揺した。

「チルチル…?」


「ニンゲンって、なんかやっぱりおもしろいのね!」

チルチルはおもいきり笑っていた。
ひとしきり笑い終えて、チルチルはぼくにこう言った。


「わたしのからだ、エルがわらうとうれしいみたい」


ぼくは、なんてこたえていいかわからない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?