2020/5/14 晴れ 東京

目を覚ました瞬間、遅刻を確信する。だけど焦ることはない。7時半の時点で午前の仕事依頼がないことは事務に確認済だ。朝食に中村屋「香りとコクのキーマ」を湯煎する。香りが抜群にいい。ひよこ豆とじゃがいもがゴロゴロ入っていて、ルックスも侘しくない。味もスパイスが効いていて、程よい肉感。美味しい。レトルトカレーはそれなりの種類を食べてきたが、値段も考えるとトップクラスやでこれは。レトルトキーマ界の雄である「鳥肌の立つキーマカレー」も名作だったが、サラサラ系が苦手な私はこちらに軍配。スーパーで今後見かけたらストックしようと思う。土日は作るぞ、タモリカレー。シャワーを浴びて、11時過ぎに家を出る。

mei ehara『Ampersands』を聴く。Ampersandとは「&」の記号名だそう。彼女の新作はユーミン "Ampersand" フィッシュマンズという印象。レゲエのリズムとダビーな音響に乗せて物憂げな歌唱、と、悪いはずがない。ないけど、ちょっとパンチに欠けるかな。may.e名義時代にリリースされた『Reminder』というEPがとても好きだった。あのEPに認められた美しさは形を変えてそのままこのアルバムにも存在しているが、形に拘っていたせいか、物足りなさは否めない。チャイルディッシュ・ガンビーノ「Summertime Magic」を再生してみる。目指しているテクスチャー/想定しているリスナー層が極めて異なるだろうから比較対象として成立しないが、出音の1発目から遠くまで飛ばされる。今はこっちの気分なのかもしれない。ぶっ飛んでいたいのさ。

社会人なのでぶっ飛びたくても、仕事はやらなきゃいけない。せめてもとドラッギーなカレーを注文して、ほんの少しは飛んでみようとする。なんでそんな勤労意欲がないのかといえば、今日は当直だからです。お家帰りたい。早々と帰宅する同僚を見送りながら、当直帯の業務を済ませてゆく。職場のローソンでグーードッグを買う。あなたがもしホットドッグが好きなら、グーードッグを買うともれなく幸せになれるだろう。定番のトマトオニオンがおすすめ。パンがもうちょっと固くて小麦っぽければ完璧なんだけどな。

幸せは長続きせず、留置場のような当直室で横になる。窓がないのも構わない、狭いのも構わない、眩しいのも構わない、乾燥をどうにかしてくれ。憂鬱な気分のままバズっていると噂のありま猛『連ちゃんパパ』を読み始める。

やれ「絵柄が『BARレモンハート』の『闇金ウシジマ君』」だの、やれ「『自虐の詩』と『四丁目の夕日』の悪魔合体」だの。そんな前情報で上がったハードルを軽々と飛び越える、まさに名作だった。マニア間で幻の名作として認知されていた形跡もなく、こうやって再発見されて本当に良かった。舞台は90年代の日本。借金で蒸発した妻を探しに鎌倉へと向かう父(進)と息子(浩二)。進が資金稼ぎに嫌々パチンコに手を出したことをきっかけに、本来の彼が顕在化する。

悪に堕ちる、ではなく、悪が露呈する。根がクズじゃなければ思いつかないだろう暴力、乱暴、たかり、ゆすりの数々。ゲラゲラ笑いながら一気に読みきった。登場人物達は次こそはと誓いを立てて、しかしあえなく同じ間違いを犯し、開き直ったり後悔したりする。言うまでもなく、この経過は依存症の典型的なそれである。人間はギャンブルやアルコールだけでなく誤ちにさえ依存する。身を寄せた両親への置き手紙。ただごとではない。「よろしく バイ!」は私も活用しようと思う。

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様々な思惑が入り乱れ、エンディングに収斂するストーリーテリングの見事さは昨今の海外テレビドラマシリーズを彷彿とさせる。マジだぜ。無味乾燥な食卓のシーンから底意地の悪いラストカットまで、無駄な展開は存在しない全43話。ええもん読んだわ。妻にもお薦めした。お返しに彼女は『眠りに生きる子供たち』というドキュメンタリーをレコメンドしてくれた。

トラウマを抱えたままスウェーデンに避難した難民の子供たちは、先の見えない不安から逃れるために、こん睡に近い状態に陥る"あきらめ症候群"にかかるという。(Netflixのあらすじから引用)

あきらめ症候群、日本では生存放棄症候群とも呼ばれるこれら症候群は、『連ちゃんパパ』で浩二が陥った症状に近い概念なのかもしれない。目も当てられない両親の愚かさのせいで何も話せなくなった彼を「自閉症になっちゃった」とあまりに粗すぎる理解で乗り切る展開は笑うところでもあるが、自閉症は"なる"ものでなく"わかる"ものです。念のため。依存症の描写は説得力があり、疾病教育にも使えそうだけど、あの終わり方は最高で最悪だからな…。


今日の一曲/Childish Gambino「Summertime Magic」



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