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夜の終わりに

長いこと、
彼は自分が誰であるかの感覚を失っていた。

世界が彼に期待するもの、
彼自身が追い求めるもの、
そして何よりどのように生きるべきかについての答えを、彼は見失ってしまった。

彼は焦燥感を抱えながらも、
その答えを探し続けた。
そうしているうちに、これまで見過ごしていた真実の自分を見つけ出した。

それが美しいものだったらどれほどよかったか。代わりに、彼が見つけたのは、メッキの剥がれ切った醜い自分だった。

長年抱き続けていた理想と、彼自身の実態が根本的に異なることに彼は気づいた。

彼は大切な人々に偽りの自分を見せ、
彼らの期待を裏切っていた。そして、最も深く自分を裏切っていたのは、他ならぬ彼自身だった。その認識が彼を自己嫌悪と罪悪感に満ちた淵へと追いやった。

傷ついた心を癒やすために、彼は外界からの情報を遮断し、自分の記憶や存在を忘れようとした。仲間たちが励ましと優しさで彼を包もうとしても、彼の心はすでに閉ざされていた。

心を開くことを何度か試みたが、檻の中の孤独は彼を離さなかった。
やがて彼は、「この世界からの消失」こそが唯一の解決策だと思い至った。
その決断に至るまでに時間はほとんどかからなかった。

そしてついに、彼は自己の存在を消し去ることを選んだ。
夜な夜な街へと車を走らせ、最後の場所を探した。地獄への階段を登りながら、過去の会話が彼の心を刺激する。「君は…」「お前には…」。

しかし、それらの声よりも、
最終的に彼を支配したのは死の直前の恐怖だった。

「終わらせたい。だけど、怖い。」
死んだら人はどうなるのか。もしも死後が存在するとしたら、どんな世界が待っているんだろう。痛みが永遠に続く地獄、それとも新たな生命へと生まれ変わるのか。あるいは、この現実がただのシミュレーションであるなら、真の記憶を取り戻し、全く異なる存在として目覚めるのか。


いつの間にか、彼は目的の場所に辿り着いていた。
しかし、そこで彼が考えたのは
数秒前と真逆のものであった。

「ああ、もう少し生きられたらなあ」

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