見出し画像

体験1回1万2千円-20200818

レコードプレーヤーを買いました。
つい先日まで自室にあるものを捨てまくり売りまくり、漫画もCDも絵具も手放した。
己を作り上げてきた文化そのものをすべて放棄する作業を繰り返していたというのに、何という場所へたどり着いてしまったんだ私は。


元々レコード自体に興味はあったものの、どうせ飽きてしまうだろうと思っていたので手を出さずにいた。
大きな理由としては、今年に入るまで数年間何となく惰性で音楽を聴いていた節があったから。

あんなに大好きだったバンドの新譜もしっくりこなかったし、AppleMusicがおすすめする最近の曲が入ったプレイリストや映画のサウンドトラックを何となくで聴くばかりだった。
そんな中、今年に入って出会った人のおかげで音楽が好きだったころの自分を取り戻した。
自分の意志で音楽を聴くようになったし、その人のおすすめのおかげもあり、もやがかっていた視界がすっきりとひらけたと思う。

物事への関心の解像度が高い人と人付き合いをすると、自分も解像度が上がっていくという体験をしたのでとても感謝している。
視界の解像度が上がった延長で、「あったら便利」で手に取るよりも欲しい物を精査して手元に置くことが増えた。
惰性でお酒を飲みながらヘラヘラと生活していた私にとっていい兆候だと感じる。


レコードプレーヤーもその中のひとつ。
明確に欲しいなという思いが湧いてきたのは、音楽をちゃんと聴くことが増えてきたタイミングでTom MischがYussef Dayesと共に出したアルバム『What Kinda Music』を聴いてからだと思う。
手間と場所とお金をかけて聴きたいと思ったのが初めてで、これは買うべきタイミングなんだろうなと感じた。
それから結局なんやかんやあって先延ばしにしていたがようやく手にすることができた。


画像1


配送の諸々があり現在まだ『What Kinda Music』は届いていないが、Tom Mischの『Geography』がプレーヤーと同時に届いたので早急に設置し、ゆっくりと針を落とす。
ゆるりと針が落ちた瞬間の「ドッ」という音も、1曲目の『Before Paris』のざわざわと聞こえてくる喧騒もすべてが心地よく、この"体験"を手に入れるための物だったんだなと思う。

私は"体験"をお金で買うのが大好きなので、形に残るものや手間がかかるものが自分には合っていると再確認した。


先述の人物にレコードプレーヤーを購入したという報告をした。
「物質至上主義の最上級」と言われた。
正に読んで字のごとくとはこのことだと思った。

そしてその言葉を聞いてタイラー・ダーデンが過る。
映画『ファイト・クラブ』の登場人物であるタイラーは、物質至上主義である世の中を完全否定する。IKEAの家具がなんだ、ライフスタイルがなんだ、自己破壊こそが己の本質だろうと問いかける。
私は『ファイト・クラブ』でタイラー・ダーデンという男から私は一体何を学んだというのか。
何も学べていないのかもしれない。


自分で選んだ好きなものが手元にある生活に幸せを感じる。
毎日同じ時間に同じ行動をして、余計な物がない生活はきっと私にはできない。
丁寧なくらしより、めちゃくちゃな生活のほうが生きている実感が湧く。
口元に手を添えてくすくす笑うより、大きな声で大きな口を開けて涙が出るまで笑う生活がいい。
めちゃくちゃでイレギュラーなことが起きる生活の方が明らかにその時だけの"体験"を手にすることができる気がするから。
酔っ払って電車間違えてそのノリで熱海行ったり、夜中に突然自転車抱えて静岡行ったりね。
毎日同じ時間に同じ行動をとる人はパターンが読まれやすく、物がない生活は遮蔽物が少ないからスナイパーに狙われやすいと誰かも言っていたし。


良いことがあったり楽しい気持ちになったら良い音楽を聴いて踊りたい。
私は毎日踊って暮らすためにレコードプレーヤーを買ったのだ。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?