見出し画像

「再会」

やまし作   〈原案〉「冥途」内田百けん作
1 土手/黄昏時(撮影:M川河川敷)
  私はゆっくりと土手を歩いている
  私の手にはお酒の缶が握られており、少しふらふらとした足取りである
  左手にはコンビニの袋がある。
  線香の煙が空に昇っていく
  ぼうっとした様子で煙の方向に目を向ける
私「お線香……?」
  足を止めて、あたりを見回し、
  線香の匂いの出所を探す
  遠くに提灯が見え、煙が上っている様子が見えた
私「あ、お盆……」
  納得してまた歩き出す
私(ナレーション)
  「ここ最近、私の頭の中は靄がかかったようにぼんやりとして
  いた。
  何も思い出せない。何を思い出したかったのかも、何も思い出
  せない」
暗転
  タイプライター風編集

2 公園/夜(撮影:車通りの少ない公園)
(日が沈む直前)
  公園につき、ベンチに腰掛け、ビニール袋をベンチに置く
  手に持っていた酒を一気に飲み、空き缶をベンチに置く。
  溜息をつく
  あたりは暗くなり始め、ふと電灯をみると虫が辺りを集ってい
  るのが見えた
  
  缶チューハイに口をつける

私(ナレーション)
  「私は仕事をやめた。
  何をするにもやる気が起きなかった。」

  ホームセンターで縄を買う様子を映す

私(ナレーション)
  「好きだったはずの音楽はいつのまにか何の興味も湧かなくな
  っていて、ギターは部屋の隅で埃を被っている」
  
部屋の様子をうつす

  持ってきたビニール袋から缶チューハイ のプルタブを開けた
  口に含み、また大きくため息をついた

女子高生「いやほんとに!おもしろくない?酷い 話だよね!あはは!」
  いきなりの大きな声に私は驚く
  女子高生が電話をしながら公園内に入っ てきて、少し離れた所にある
  遊具に腰掛ける
  携帯を持っていないほうの手にはいちごみるくが握られている
  女子高生の声の大きさに私は眉をひそめる

女子高生「ね、忘れるとかわけわかんないよね
   まだ一度も見送ってくれてないんだよ」

  女子高生は怒気をはらんだような、寂し い声色で電話をしている
  女子高生は足でブランコをぶらぶらと動 かしている

  姿はピントが合わないカメラのように ぼんやりとしている
  私は目をこする
  ぼんやりとした輪郭の彼女と目が合った 気がする

女子高生「まあ、私のせいと言えば私のせいなんだけどね」

  少し寂しそうに女子高生は目を逸らした
  靄がかかった(光度を上げた)昔の記憶を 一瞬流す
      ⇓
  鈴の音

? 「これからずっと毎年この場所で」
  掠れて若干聞き取りづらい声

  その瞬間に私の頬には涙が流れた

私(ナレーション)
  「なぜか涙が流れた。理由はなぜかわか らない。ただただ
  悲しくてたまらなかっ た。何か忘れてはいけなかったことを思
  い出せそうな気がした。」
  不審がられることを危惧し、すぐに袖で 涙をぬぐう
  そして缶チューハイをもう一度飲む

私(ナレーション)
  「その後も彼女はぼんやりと、ピンボケ したカメラのよう
  に姿がはっきりと見え ることはなかった。
  頭の中にだけ、どこか懐かしいような
  声が鮮明に響いていた」
  ピンボケした映像と私の映像を交互に流す

私(ナレーション)
  「ただなんだか懐かしいような、
  寂しいような感覚だけがあった。」

私は
女子高生「わ、こんな時間か!暗くなってきたし、
  そろそろ帰る時間だわ。」

  私は声のするほうに目を向ける
  女子高生は電話をしながらブランコから 立ち上がる
  公園に入ってきた道とは逆側の方向の道
  に進むため、彼女は私の前を横切った
  沢山荷物が詰め込まれたスクールバック
  を背負いなおすと同時に一枚のカセット
  テープがカバンから落ちる

私「あ……落ちましたよ」

  女子高生に声をかけるも、私の声は届い ていない様子で、
  そのままスタスタと歩 いて行ってしまう

  仕方なく私はカセットテープを拾って、砂を払う
  カセットテープには「再会」と書かれて いた

暗転

3 回想/放課後/学校

  黒から明るさを上げて回想シーン
  音は反響しているような加工を施す

(ナレーション)
  「私たちはいつも一緒にいた。同じ場所  で曲を作り、く
  だらない話で盛り上が た。」

  楽しそうにしている二人の映像が流れる
  回想中の自然な流れで、夕夏の足や手に
  貼られた絆創膏が見える

夕夏「あたし、弓弦と一緒にいるのほんと好き」
私「あはは、いきなりなんなの?私もだけど」
夕夏「いやー……家に帰りたくないなって」
夕夏はどこか寂しそうに笑いながら答える
夕夏「あっ!帰り銭湯寄ってかない?
夜はマクド食べたい」
私「いきなり⁉まぁいいけど」

  私はいきなりの夕夏の誘いに驚きながら 笑う

私「じゃあちょっと親に連絡してくるわ」

  私はそそくさと離れた場所に駆けていく
  その背中を見つめる夕夏の後姿を映す

暗転(一瞬→場面転換のみ)

  校庭で運動部が部活をしている
  校舎裏で曲を作る夕夏と私を映す

私(ナレーション)
  「私たちは二人で曲を作っていた
  日々の感動や幸せ、時には葛藤までも、
  二人で曲に詰め込んでいた
  その日は8月の半ばで、学校には部活を している学生の声
  と二人のギターと歌声だけが響いていた。」

  夕夏と私はギターを弾いて、歌を歌う
  足元には食べかけのスティックパンと
  いちごみるく、楽譜など多くの物が散乱している
  夕夏がテープレコーダーの録音終了ボタ ン押す

夕夏「やった~!!おわった……!」
私「めっちゃ疲れた~……緊張した!」
夕夏「ほんまよね、お疲れ様~!」
私「うん。夕夏もお疲れ」

  夕夏がレコーダーからテープを取り出す
  筆箱からペンを取り出し、テープのメモ欄に文字を書く
  夕夏は私に向かってテープを見せてきて

夕夏「はい!記念すべき1作目!完成!」

  ぐいっと目の前に差し出されたカセット テープには大きく
  「再会」の文字が描か れていた

夕夏「毎年1作目完成記念で集まろうよ!
  これからずっと毎年この場所で。
  大人になっても、死んじゃっても幽霊になって
  絶対に集まろう」

私「うん。そうだね。集まろう。」

  私と夕夏は微笑み合う
  私は渡されたカセットを手に持ち
  手に持っているカセットが映される

暗転

4 公園/夜(日が沈む直前)

  (シーン3終わりと同じ画角)
  手に持っているカセットテープが写る

私「やっぱりそうだ……」

私(ナレーション)
  「私はやっと思い出した。なぜ忘れていたのだろう。」

  女子高生はゆっくり公園の外に歩いていく

私「夕夏!!!!」

  私はカセットテープを強く握り、公園の 出口に向かって走る

私「夕夏……」

  私の声は夕夏に全く届いていない様子だ

暗転

5 回想/私の記憶

  映像:セピア
  椅子の上に乗った夕夏の足が写る
  (スローモーション)

私(ナレーション)
  「全部忘れていた。」

  夕夏の影が首に縄をかける
  (スローモーション)

私(ナレーション)
  「いや、忘れたかったの」

  夕夏の足は椅子を蹴る
  (スローモーション)

私(ナレーション)
  「認められなかった。」

  夕夏が蹴った椅子が倒れ、大きな音を立てる

暗転

私(ナレーション)
  「あなたが死んだことなんて」

6 公園/夜

  公園の外に出るとそこには誰もいなかっ た

  ふと私の顔に、線香の煙がかかる
  カセットテープをにぎりしめ、その場で静かに泣き崩れる
  カセットテープに涙が落ちる
  私の泣いている影を撮り、フェードアウト

私「ごめん、ごめんなさい……」

7 住宅街/昼

  ギターを背負い、住宅街を私が歩く

私(ナレーション)
  「夕夏は日頃から親から虐待を受けてい た。毎日のストレ
  スに押しつぶされた夕 夏は首を吊った」

  慣れた様子で校舎の裏に忍び込む

私(ナレーション)
  「大学受験でいっぱいいっぱいになって いた私は、夕夏の
  SOSに気づくことが 出来なかった。」

  かばんの中からいちごみるくとスティッ クパンを取り出す
  いつも夕夏が座っていた場所に置く

私(ナレーション)
  「人は死んだ人間のことを声から忘れて いくらしい。」

私「はい。夕夏好きだったでしょ。コレ」

  もってきた皿に線香をのせ火を付ける
  煙が出たら手を合わせる

私「全然来なくてごめんね。」

  線香の煙が揺れる
  私がすこし微笑む

私(ナレーション)
  「線香の煙がかすかに揺れた。まるで夕夏
   が笑っているように感じました」

タイトル 「再会」

  「再会」の文字が消える
  タイプライターで「際会」が打ち込まれる。

エンディング

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?