ジョアン・C・トロント『モラル・バウンダリー』|読書記録 10

読書記録10冊目、トロントの『モラル・バウンダリー』。

約30年前に書かれた本だが、今年翻訳本が出版された。
ケアの倫理に関する解説がされている本である。
今現在はさらに洗練した理論になっているが、これは初期の本として導入としても学ぶことが多かった。

トロントの主張の要約

近代のカント主義的な自律的で平等な人間観と異なり、
トロントは人間は相互依存的で、不平等な存在であるという前提に立つ。

もっと一般的な意味において、ケアは「人類的な活動であり、私たちがこの世界で、できるかぎり善く生きるために、この『世界』を維持し、継続させ、そして修復するためになす、すべての活動を含んでいる。」この世界とは、私たちの身体、私たち自身、そして環境のことであり、生命を維持するための複雑な網の目へと、私たちが編みこもうとする、あらゆるものを含んでいる。

そこで、ケアを実践と捉えて、4つのフェーズ及び4つの道徳的要素に分けて理解をする。

4つのフェーズとは
①関心を向けること
②世話をすること
③ケアを提供すること
④ケアを受け取ること

4つの道徳的要素とは
①注視
②責任
③能力
④応答

これらを統合した先で、ケア責任をよりよく果たすことができるようになるという。

道徳は文化的・政治的なコンテクストの上に成立しているが、今ではそれが見にくくなっている。
道徳は3つの境界によって、理解が妨げられている。
①道徳と政治
道徳と政治は本来は二分できるはずがなく、複雑に絡み合っている。
しかし、それをわけることによって、権力と特権を伝えていくことを正当化している。
②道徳的観点
道徳を普遍的なものとして理論化して、理論から実践を導くことができると考えることによって、ケアニーズを真に満たすことができない状態が正当化されてしまう。
③公的生活と私的生活
公的生活と私的生活の間に境界を引き、私的生活を女性と結びつける/封じ込めることによって、ケアは価値が低いと見なされてきた。

それによって、見づらくなってきた道徳を、ケアを中心とした社会へと再編することによって、道徳判断ができるようになっていく、としている。

本書の感想

・まだ十分理解できていないので、いずれ追記したいと思っている。

・道徳と政治が絡んでいることを明らかにすることがどんな意味を持つのか、ケアを気質ではなくて政治的な実践として扱うことによってどんな意味が失われるのか注視しておきたいところ。


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