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崑崙

中国古代の伝説上の山岳。

居ぬ人に向かって語りかけるのは
愚かなことだと笑うだろうか 誰か

夜の帳が下りたころ
篝火からはぜた火花が泣いていく

弦よ 奮っておくれ
痩せた指とつれた喉を音色に隠して

ねえ
手紙が届かぬ かの地にあって
光を追いに 山へ向かった男たち

選んだものに眩んだまなこは
闇の彼方へ消えてった
あの流星を捉えてくれた?

夏に願ったいくつもの
願いを射かけた星の矢羽根

ねえ
そこに何かあったかしら
あたしたちを置いて行っちまった先に

全部やって 満たしてやって
なにか欲しいなんて いつ言った?
女を選ばなかった男たち

あたしたちの居ない腕で
霞を抱きしめ 何が残る
母を背負わぬ その背に
かがやき乗せて どこへ帰る

嵐を終えた今宵なら
風よ 鷲の背にのせて
きっと届けておくれ

夢を持たず 棄てられない
愚かな あたしたちの声を
還らぬ男たちの耳へ

春よ 来るな まだまだ来るな
あのひとらの 脚を疾く山風が
冬はいっそう強いから

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