私的国語辞典_表紙絵2

私的国語辞典~二文字言葉とその例文~ セレクション84『蹴る(ける)』

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作者駐:
 『私的国語辞典』は、基本的には全文無料で閲覧が可能です。ただ、これらは基本『例文』となっておりますので、そのほとんどが未完となっています。
 基本的にそれらの『例文』は続きを書かないつもりではおりますが、もしどうしても続きが気になる方は、投げ銭して戴ければ有料部分に続きを執筆いたしますので、よろしくお願いいたします。


セレクション83『蹴る(ける)』(610文字)



――またあの子。

帰り道にある公園をの中央で一人サッカーボールを力無く蹴る少年を見て、真紀は表情を曇らせた。

彼を見かけるようになって2週間、最初は可哀相に感じていた真紀も、さすがに毎日見かけるとなれば、感覚も麻痺し始めている。

真紀の寂しそうな視線に気づいたのか、少年はボールを蹴りながらふと真紀の方を見上げる。真紀は不思議そうに彼女を見る少年と、彼が転がしたボールが公園の入口へと向かっているのを、無言のまま寂しげに見つめている。
少年は自分のボールの行く先に気付き、慌ててボールを追いかけるが、予想外にスピードの乗ったボールになかなか追いつけない。

てんてんてん。

そしてボールは公園の入口から車道へと転がっていき、少年も後を追って車道に飛び出し――次の瞬間、激しいブレーキ音とともに車が何かに衝突する音が響き渡り、少年を轢いたらしい車が火に包まれた。

真紀はその場に立ち尽くし、ただ寂しげに事故車が燃え上がるのを見つめている。その場に、少年の姿もボールも見当たらない。


見当たらないはずなのだ。


真紀は小さなため息をつくと、再び視線を公園の中央へ向ける。
そこには先程の少年が、一人でサッカーボールを力無く蹴っていた。

真紀は少年が再びボールを追いかけて燃え上がる車に向かって行くのを見つめながら、どう接すれば彼が成仏してくれるのかを考えていた。

(610文字)

『蹴る(けーる)』
 [動ラ五(四)]
  1 足で勢いよく突く。また、足にはずみをつけるようにして突いて飛ばす。「馬に―・られる」「ボールを―・る」
  2 足で地面などを強く押す。「床を―・って高くジャンプする」「水を―・って泳ぐ」
  3 (「席をける」の形で)怒って荒々しくその場を立ち去る。「裁定を不満とし、席を―・って退場する」
  4 要求・提案などを受け入れないで、きっぱり断る。はねつける。拒絶する。「組合の要求を―・る」「与えられた役を―・る」
  [補説]下一段の「ける」が江戸時代後半から四段に活用するようになったもの。しかし、現代語でも「け散らす」「け飛ばす」などの複合語には下一段活用が残存しており、命令形も「けれ」のほか「けろ」も用いられる。

(大辞林より引用)

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