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【偏愛……映画?】ケルベロス・サーガ。

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ども、ならざきです。

先日土田じゃこさんが、押井守監督が原作・脚本を務めた作品である『人狼』という映画についてアツく語っているのを見まして。
もともとその『人狼』というアニメ映画が押井守監督の『ケルベロス・サーガ』という一連の作品群の一つなんですが、その作品群が私のエバーグリーンだったりするんですよね。

じゃあ私がその作品群の世界観について語ってみようじゃないか、ということで。
ちょっと書いてみることにします。


1.ケルベロス・サーガとはなんぞや、という話。

押井守監督が紡いできた作品群『ケルベロス・サーガ』。
それは今、ここに在る日本とは別の、しかしもしかしたら在り得たかもしれない日本を舞台にした、硝煙と血、秩序と混沌が入り乱れる世界を語りつづけてきた物語です。

大まかな概要を、Wikipediaから引用してみます。


「あの決定的な敗戦から数十年」、第二次世界大戦の戦敗国・日本。
戦勝国・ドイツによる占領統治下の混迷からようやく抜け出し、国際社会への復帰のために強行された経済政策は、失業者と凶悪犯罪の増加、また、セクトと呼ばれる過激派集団の形成を促し、本来それらに対応するはずの自治体警察の能力を超えた武装闘争が、深刻な社会問題と化していた。

政府は、国家警察への昇格を目論む自治警を牽制し、同時に自衛隊の治安出動を回避するため、高い戦闘力を持つ警察機関(いわゆる警察軍)として「首都圏治安警察機構」、通称「首都警」を組織した。セクトとの武力闘争の中で首都警は重武装化の道をひた走り、中でもドイツが戦時中に使用した動甲冑「プロテクトギア」に身を固め、MG34などの重火器で武装した首都警警備部特機隊、通称「ケルベロス」の名は犯罪者やテロリスト達を震え上がらせた。

しかし、行き過ぎた武装化は国民の反発や自治警・公安部などとの軋轢を招き、特機隊は次第に孤立を深めていく。そして、歴史は彼らに重要かつ最終的な役割を与える事となった…。


この世界においては、第二次世界大戦がドイツ・イタリア枢軸国と日本・イギリス同盟の戦い(アメリカは第一次世界大戦以前からモンロー主義を貫き不参戦)で、戦敗国となった日本はドイツ軍に占領されたという結末を迎えてます。
そして、高度経済成長によって格差が大幅に拡がり、その結果、今の日本とは比較にならないほどの治安の悪化が進むことになります。
そして最悪の治安を回復すべく、自治体が独自に警察機構(自治警)を設立し、犯罪に対応していくことになります。
そしてやがて大きくなった自治警が国家警察に取って代わろうとするにいたり、政府が導き出した答えが『警察の軍隊化』、『首都警』の設立でした。

首都警は国家権力のチカラを背景にその武装強化を進め、やがて『プロテクトギア』と呼ばれるパワードスーツや銃火器を備えた部隊、首都警警備部特機隊、通称『ケルベロス』と呼ばれる部隊を創設します。このケルベロスは次々と犯罪者やテロリストを殲滅し、首都警の『番犬』として派手な活躍をしていきます。

しかし、『番犬』は主人の背後にいてこそその役割を果たすもの。
主人をないがしろにして暴走し始めてしまえば、やがて行き着く先は想像がつくことでしょう。

この『ケルベロス・サーガ』は、その『番犬』であった特機隊がたどり着いた、破滅という運命の物語なのです。


もともとこの作品群は、押井守監督の初実写作品である『紅い眼鏡』がきっかけとなって始まりました。
この『紅い眼鏡』は、アニメ『うる星やつら』の放送中に制作が決まったもので、もともとは作中の『メガネ』役だった千葉繁のプロモーションビデオをつくろう、という話がきっかけだったのですが――

制作自体も当初は500万程度、16mmフィルムで撮影するという、いわば低予算作品だったはずだったのですが、あれよあれよと話が膨らんで、気づけば35mmで映画にすることになったのです。


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さすがに今改めて観ると、低予算映画らしいコミカルさが目についてしまいますけど、それでもスタッフや俳優さん達の豪華さに驚かれる方も多いのではないでしょうか。
スタッフには斯波重治、押井守、伊藤和典、川井憲次、出渕裕、高田明美が軒を連ね、出演俳優には千葉繁、鷲尾真知子、田中秀幸、玄田哲章、永井一郎、大塚康生、天本英世、西村智博、古川登志夫、草尾毅と、とても低予算映画とは思えない豪華さでしょ?
当時の私はもう、この名前だけでとにかく観たくて。
で、なんとかして観ることが出来たこの作品に――いや、その作品の背後にある重厚な世界観に酔いしれたんです。

まず私の心を射抜いたのは、その作中に登場した『プロテクトギア』の存在でした。

出渕裕さんがメインデザイン、高田明美さんがエンブレムデザインを担当したこのパワードスーツ。
これを見て、純粋に、着てみたいと思ったのは私だけでしょうか。
これまでたくさんのパワードスーツを見てきましたけど、ここまで『闘う』ことを想定してブラッシュアップされたものは、後にも先にも無いと思います。

このスーツが、映画の中で普通に動きまわってるのをみて、もうそりゃシビレましたよ。

そして、もう一つ惚れ込んだのは、まさしくその世界を生きるキャラクターの生き様でした。
『正義を行えば、世界の半分を怒らせる――』
この世界において、正義と悪、秩序と混沌、さらには現実と非現実すら境界が曖昧になっています。
何が正しくて何が正しくないのか、何を信じて何を疑えばよいのか分からない世界において、しかし千葉繁演じる都々目紅一は、まっすぐに自分の信じる道を進んでいきます。
これがまた、カッコよくてねえ。


……っと、コホン。
先に進みます。

その後、『紅い眼鏡』に始まったこの『ケルベロス・サーガ』は、藤原カムイという才能を得て更に世界を広げることに成功しました。
知ってる人は知っている、『犬狼伝説』シリーズです。

藤原カムイの見事な筆に依る、ケルベロス・サーガの物語としての補完。
恐らくは藤原カムイでしかこの作品は描けず、藤原カムイだったからこそこの世界はさらなる拡がりを見せることに成功したのだと思います。

そして、その後に続いたのが、実写映画『ケルベロスー地獄の番犬ー』でした。


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『紅い眼鏡』で語られなかった空白の期間の物語として描かれたこの続編は、前作にあった難解さや低予算独特のコミカルさを排し、アクションや台詞一つに至るまでとことんまで描写し尽くした、最高傑作でした。

首都警特機隊、通称「ケルベロス隊」の反乱事件から3年後。
仮出所し事件当時一人だけ国外へ逃亡した上官の都々目紅一を追って、台湾の地に立った乾を中心にした物語は、前半のロードムービーのような穏やかな展開と、後半の実弾が飛び交うリアルで激しい銃撃戦という、ある意味押井守監督作品の全てが盛り込まれた映画で、当時観た時は最初から最後まで震えが止まらなかったのを思い出します。

ちなみにこの銃撃戦ですが、あのBIG SHOTの納富貴久男さん(『その男、凶暴につき』や『あぶない刑事シリーズ』最近では『新宿インシデント』や『SPEC』や『悪の教典』かな)がスーパーバイザーとして参加されていた、と書けば、どれくらい激しいかは想像がつくと思います。

ちなみにこの主人公の乾役は、藤木義勝さん。
この後に制作されたアニメ映画『人狼』の主役の声や『アサルトガールズ』にも出演されてましたっけ。


っと、余談が過ぎました。

その後のケルベロス・サーガについては、ざっくりと書いていきます。

『ケルベロス』の公開から9年後。
土田じゃこさんが紹介していた『人狼 JIN-ROH』が、押井守監督の原作/脚本という形で制作されました。
物語としては、『紅い眼鏡』や『ケルベロス』の更に前、『犬狼伝説』で語られていた時期のお話で、特機隊が反乱を起こした『ケルベロス騒乱』より前の、特機隊の過剰な戦闘力が社会問題になり、公安部との軋轢が強まったころの物語となっています。

っと、こちらの話は、土田じゃこさんのnoteを読んでもらえばもう、十分かなと(笑)

偏愛映画「人狼 JIN-ROH」


ちなみに制作はProductionI.G.。
彼らの手がけた最後のセルアニメーションだったんですよね、これ。


そして、その後はコミックスと小説、ラジオドラマによって世界は展開していきました。
以下にそのラインナップを引用しておきます。

2003年
『RAINY DOGS 紅い足痕 / 犬狼伝説 紅い足痕』(漫画 / 画:杉浦守)
2006年
『ケルベロス 鋼鉄の猟犬 / Kerberos Panzer Jäger』(ラジオドラマ)
2006年
『ケルベロス×立喰師 腹腹時計の少女』(漫画 / 画:杉浦守)
2009年
『ケルベロス 東京市街戦 首都警特機隊全記録』(ムック / 学研)
2010年
『ケルベロス 鋼鉄の猟犬』(小説版 / 幻冬舎)

――そして、実は、映画の新作も予定されていたんです。
タイトルは、『エルの乱 鏖殺の島』。
もともとは深作健太監督が深作欣二監督とともに西成暴動を元にした映画をつくろうと考えたのが発端で、深作欣二監督逝去後に押井守監督と出会い、ケルベロス・サーガの一つとして描きたい、と話を持ちかけたのがこの作品だったそうです。
本来は2006年にクランクインの予定だったこの作品、制作費が掛かり過ぎることで出資者が現れず、さらに深作健太監督自身が『スケバン刑事』撮影に入ってしまい、そのままオクラ入りとなってしまったので、おそらく今後日の目を見ることは無いんだろうな、と残念でなりません。

ちなみにこの映画のあらすじはこうでした。

 199X年、深刻な政情不安を抱えた日本──。
 流入した大量の難民たちが政治的権利の獲得を求め武装闘争を開始、政府は公安委員会直属の実働部隊(首都警)を組織しこれを制圧する。
 しかし暴動の沈静化と共に、政府から過剰警備への非難を受け首都警は解体された。
 首都警の有志は各所で決起、世に言う“ケルベロス騒乱”を起こすが、決起部隊は破滅へと追い込まれた。
 それから18年、東京・羽田沖。東京湾第202不法滞在者居住区に、一人の男が移送されてくる。素性の不明なその男に、不穏な空気を感じた警視庁幹部は警備を強化し、少女は闘争に倒れた亡き父の影を見る。男は伝説の指導者の再来なのか。難民2世の暴動とそれを制圧しようとする警察、そして首都警の決起部隊の生き残りが複雑に交錯しながら、まさに“ケルベロス騒乱”が再燃しようとしていた──。

もし制作されたなら、プロテクトギアを装着した部隊同士の激しいバトルが、しかも深作健太監督の演出で展開されたのだと思うと……ほんと残念です。

いつか、この作品が制作されることを願いつつ、
とりあえずはこの辺でお開きとさせてもらいます。


ちなみにそれぞれの作品は、現在でも入手は可能だと思います。
最後にamazonのそれぞれのページを紹介して、終わりにしたいと思います。
長々とご清聴、ありがとうございました(ぺこり)


紅い眼鏡:
http://www.amazon.co.jp/dp/B00313O3Y2
ケルベロスー地獄の番犬ー:
http://www.amazon.co.jp/dp/B00313O3ZG
人狼 JIN-ROH:
http://www.amazon.co.jp/dp/B002KNRINW
犬狼伝説:
http://www.amazon.co.jp/dp/4057001956
ケルベロス 鋼鉄の猟犬:
(小説版のみ販売されています)
http://www.amazon.co.jp/dp/4344419235
犬狼伝説 紅い足痕 (100%コミックス) :
http://www.amazon.co.jp/dp/4048537806
ケルベロス×立喰師腹腹時計の少女 (リュウコミックス):
http://www.amazon.co.jp/dp/4199500596


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