『夜ヲ行ケ ~Short Session Ver.』
※ なんと、miyabiyaさんがこの作品の表紙絵を作ってくださいました!
すごいすごい、ありがとうございました!
ども、ならざきです。
今週の『ショート・セッション』ですが、実はこれまでとちょっと違ってまして。
これまでは別々の方の作品二つとクロスオーバーさせて作品を作るという試みをしてきましたが、今回クロスオーバーするのはひとつの作品のみなんです。
まずは紹介から。
『夜ヲ行ケ(Dark Knight Note Echo Mix)』(tominagayukiさん)
実はこの作品は、それ自体がコラボ作品でして。
佐伯有さんが公開した写真にmiyabiyaさんが詩を付けて加工し、その詩をもとにがきえさんが曲を作り、その曲をtominagayukiさんがミックスした――という、この時点で4人の素晴らしい才能が積み重なって出来上がった作品なのです。
という訳で。
今回のセッションは、曲を聴きながら読んでもらえると嬉しいです。
……もっとも、曲の素晴らしさに霞んでしまう可能性は高いのですが(^_^;)
ってか、表紙絵どうしよう……とりあえず保留で(^_^;)
では、どうぞ!
『夜ヲ行ケ ~Short Session Ver.』
原作 『夜ヲ行ケ』(佐伯 有×miyabiya×がきえ×tominagayuki)
執筆 楢崎六呂
ガチャリ。
ガシャン。
ギギギ……。
ガシャン。
深夜。
灯り一つ点いていない高層ビル群に挟まれた、一本の四車線道路のど真ん中に、一つの影がうごめいていた。
ガシャン。
ギイィィ……。
ガシャン。
その人間に似た影は、『歩いて』いるように見えた。
およそ普通の人間とは思えない、おぼつかない足取りではあったが、それはまさしく『歩いて』いた。
ガシャン。
ギギギ。
ガシャン。
影が傾く。
動かない左脚を、身体を傾けることで無理やりごと持ち上げて、前に出す。
影が動くたびに発せられる錆びた鉄が擦れたような音が、静寂に支配された世界を鋭く切り裂いていく。
ギギギ……。
ガキッ。
ガシャアン!
軸になった右脚の膝らしき関節が、途中で力尽きたようにがくん、と折れ曲がり、影がバランスを崩して横倒しになる。
これまでに無い壮絶な音の波が周囲の木々を、そしてビルを揺らす。
ギギ……ギギ……。
横倒しになった影が何とかして起き上がろうとするが、倒れたときに何かが外れてしまったのか、ブルブルと小刻みに震えはするものの、それ以上起き上がることができずにいる。
ギギ……ギギ……。
ギャギギャギギギ!
それでも影は、動く右手を前に伸ばして、ずり、ずりと少しずつ前に進んでいく。
ひび割れたアスファルトと鉄が擦れる耳障りな音が響き渡る。
ギャギ!
ギギギ……。
ギャギギギ!
ギギギ……。
ギャギギギ!
悲鳴にも似た、慟哭にも似たその音に、反応するものは無い。
生命の気配すら感じない、濃密な闇に包まれた世界に抵抗するように、ただひたすらに影は前に這い進んでいく。
ギャギ!
……ギャギギ!
力尽きてきたのだろうか。
影の動きが少しずつ鈍くなっていく。
前に伸ばす右手の動きが、鈍くなっていく。
そのとき。
ビルの隙間から、月の淡い光が差し込んできた。
仄かに白い光の筋が、まるでスポットライトのように道路を照らしだしていく。
ギギ……ギャギ!
ギギ……ギャギ!
やがて、月光が作り上げたステージに影の右手が――そして、ゆっくりと身体が現れた。
『それ』は、人の姿を模した鉄の塊だった。
遙か昔にロボットと呼ばれていた、赤錆で覆い尽くされた鉄の塊。
アスファルトに突き立て続けたためかその指のほとんどが失われ、引きずられ続けた身体は至るところで外装が失われていたが、それでも『それ』は必死に前に進もうとしていた。
ッギギ……。
ギャ!
……ギギ……ギギ……。
『それ』が、スポットライトの中央で動きを止める。
伸ばそうとした右手が、その中途で空を切る。
ギギ……ギギ……。
残された右の人差し指らしき塊が、まっすぐに前に向けられたまま小刻みに震える。
その先に在る見えない何かに向けて、まっすぐに。
ギギ……ギギ……。
ギギ……ギ……。
次第に動きが弱まっていく『それ』の、むき出しになった目から、ぽたり、ぽたりと液体が漏れ落ちる。
ただの潤滑油であろうそれは月光に照らされてキラキラと輝き、そのままアスファルトへと落ちていく。
ギギ……ギィ……ギ……。
――そして。
『それ』はとうとう、動かなくなった。
人差し指は宙をさまよい、
潤滑油は枯れ果て、
ピクリとも動かなくなった。
※
それから幾年月が経った。
長い年月を経て、その世界のすべてが、生い茂った木々や苔や雑草に隠れて見えなくなっていた。
風化し崩れ落ちたビル群も、
アスファルトで覆われていた道路も、
そこに眠る鉄の塊も、すべてが。
(了)
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