私的国語辞典~二文字言葉とその例文~ セレクション58『切る(きる)』
セレクション58『切る(きる)』(564文字)
いつものように8時過ぎに帰宅して着替えを済ませ、大した食欲もないまま台所に立った俺は、そこにきて初めて食材を買い忘れている事に気が付いた。
何か無いかと棚を探してみると、ずっと前に買った袋ラーメンが一袋だけ見つかった。
「仕方ない、か」
そもそも食欲が無いんだから、と自分を納得させると、鍋に水を入れて沸かし始める。コンロの火がうっとうしい位に元気良く燃え上がるのを見つめながら、袋を開けようと袋の端を摘んだ時、ふと小学生の頃に給食で出たソフト麺を思い出した。
ソフト麺。
あの中途半端に開けにくい袋にいらついて、
「……つい力を入れすぎて中身を床に撒き散らしたっけ」
懐かしさの余り、誰も居ない部屋で一人呟く俺。
「何思い出してんだか」
苦笑いしながら袋を丁寧に引き裂き、中の乾麺とスープの素を取り出す。
「……そういや、あいつ元気かな」
ソフト麺を撒き散らした後、恐らくはかなりがっかりした顔をしていたんだろう、のろのろと後始末を終えた俺に、隣の席の女の子が
『半分こ、しよ?』
と声をかけてくれたんだ。
半分に分けた麺を食べながら理由を聞くと、
彼女は少食で、いつも麺の量が多かったの、
と照れ臭そうに笑っていたっけ。
あいつは今でも、
誰かと半分こ、してるんだろうか。
「……俺も、歳かな」
呟きとともに俺は苦笑し、
ぐつぐつと煮え立つ鍋に乾麺をそっと入れた。
(564文字)
『切る(きーる)』
[動ラ五(四)]
1 つながっているものを断ったり、付いているものを離したりする。特に、刃物などでものを分け離す。「枝を―・る」「爪(つめ)を―・る」「二センチ角に―・る」
2
㋐刃物などで人を傷つけ、または、殺す。「一刀のもとに人を―・る」
㋑鋭利なもので、からだの一部を傷つける。「ナイフで手を―・る」
㋒切開手術をする。「盲腸を―・る」
3 ふさがっているものや閉じてあるものを開ける。「封を―・る」
4 遠慮なく、鋭く批判する。「芸能界を―・る」
5
㋐溝をほる。「ねじ山を―・る」
㋑部屋や土間の一部を掘り下げて炉やこたつをつくる。「いろりを―・る」
㋒謄写版のやすりの上で、鉄筆で文字を書く。「原紙を―・る」
6
㋐続いている物事を、そこでやめたり断ったりする。「話を―・る」「電話を―・る」
㋑続いている人との関係をなくする。「縁を―・る」
㋒器械を操作して電流を止める。「スイッチを―・る」「ラジオを―・る」
㋓道や列などを横切って通る。「行列を―・って進む」
7 券などにパンチを入れたり、その一部を離したりする。「切符を―・る」
8 振り落としたり、したたらせたりして水分などを取り去る。「傘のしずくを―・る」「ざるに上げて水気を―・る」
9 一面に広がっているものを分けるようにして勢いよく進む。「波を―・って走る」「肩で風を―・る」
10 トランプ・カルタ・花札などで、札をよくまぜ合わせる。「カードをよく―・って配る」
11
㋐囲碁で、相手の石の連続を断つ。
㋑将棋で、駒(こま)を交換し、手に持つ。特に、大駒を小駒と交換する。「飛車を―・る」
12 免職・解雇・除名する。「従業員の首を―・る」
13 物事に区切りをつける。
㋐時期や数量を限定する。「期限を―・る」「先着一〇〇名で―・る」
㋑ある基準の数値以下・以内にする。割る。「一〇〇メートル一〇秒を―・る」「元値を―・って売る」
㋒伝票や小切手などを発行する。「小切手を―・る」
14 際立った、または、思いきった行為・動作をする。
㋐他に先立って始める。「彼がまず口を―・った」「攻撃の火蓋(ひぶた)を―・る」
㋑威勢のいい、または、わざと目立つような口ぶり・態度をする。「たんかを―・る」「札びらを―・る」
㋒歌舞伎や能で、強い感情を表すためにある目立つ表情・動作をする。「面(おもて)を―・る」「見得(みえ)を―・る」
15 ハンドル・舵(かじ)などを操作して、進む方向を変える。「ハンドルを右に―・る」「カーブを―・る」
16 卓球・テニス・ゴルフなどで、打球に特殊な回転を与えたり、その進路を曲げたりするように打つ。カットする。
17 トランプで、切り札を出して勝負に出る。「クラブのエースで―・る」
18 空中にきまった形を描く。「手刀―・って懸賞を受け取る」
19 (「鑽る」とも書く)石と金属を打ち合わせたり、木と木をこすり合わせたりして発火させる。「火を―・る」
20 (動詞の連用形に付いて)
㋐完全に、また、最後までその行為をする。…し終える。…し尽くす。「力を出し―・る」「売り―・る」
㋑限界にきて、これ以上の事態は考えられない状態である。すっかり…する。「疲れ―・る」「弱り―・った表情」
㋒きっぱり…する。「引き止めるのを振り―・る」「関係を断ち―・る」
21 物事を決定する。終える。
「いまだ勝負も―・らぬに」〈今昔・二八・三五〉
22 (木を切って)つくる。
「今年はたびをも―・ってはかせい」〈和泉流狂・木六駄〉
[補説]広く一般的には「切る」を用い、人などには「斬る」、立ち木などには「伐る」、枝・葉・花などには「剪る」、布・紙などには「截る」を用いることがある。
(大辞林より引用)
(ご購入者が現れましたので、続きを書いてみました)
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