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出産は2時間サスペンス

下の子が生まれる際は、少量の破水から始まり入院し、丸1日経過を見ましょうと言われ、個室用TVはあるものの、ベッドとトイレ以外は入退場が禁止されて、身体的というよりは精神的にまいった。鉄腕DASH以外に興味のある番組もない。

余りにも暇な24時間近くをどう潰したかは思い出せないが、私の身体の状況は全く変わらない。羊水の増減もなければ、陣痛も来ず、胎動もドッタンバッタンしている。私はお前を外に出すためにここで拘束されてるんだぞ。

朝食を食べていると医師が来て、陣痛促進剤を使いましょう、と言われた。破水から24時間以上経ってからだと羊水の汚染で母子が危険だという知識はあったので、はいな、という具合だった。

陣痛室という、結構広めな部屋にベッドとTV、机と椅子、というような部屋で、ベッドに寝かされ、点滴を持った看護師さんがガラガラ音を立てながら現れ、いよいよか、と思ったらば、部屋の外の看護師さんと話をし、ごめんなさい、錠剤にするわね、と去り、今度はピンクの錠剤を渡され、これを3時間に1回飲むのよ、と説明された。

その場で飲んで3時間、本当に何も変わらない。私の身体どうなってるの?

もう1錠飲んでしばらくTVを見ていたら、2時間サスペンスの再放送が始まった。主演は船越英一郎で、刑事モノらしい。

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ふと気づくと、何だか久々に生理痛を感じる。これが陣痛の始まり?こんな微弱なものから始まるの?とは思いつつ、夫に

「陣痛がきたっぽい」

とメールを打つ。

夫が病室に来るまでも結構陣痛は進んでいて、いだいだいだだだだとか言っているのだが、どうしても船越英一郎が気になって、陣痛と陣痛の間にTVを見てしまう。どうも犯人は被害者の不倫相手や恋人など、若い女性のようだ。

自分の名誉のために言っておくが、これでも必死である。

その後、痛みが1段階上がり、万力で腰から背中をギリギリ巻き押されてる状態になってからしばらくしてから、医師が、お産に入りますか、という声とともに、看護師さんたちが不要なものを片付けお産用の設備の準備を始めた。が

夫よ、何故お前も椅子や机を持ち運んでるんだ

お産に入ると、片付け損ねたのか片付けないものかは知らないが、TVでは船越英一郎が犯人の女性を崖においつめていた。久々に崖系を見た。

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痛くない瞬間を教えて下さいね、とか、左下の方にいきめませんか?と

「ねえ待って、それって人体としてすることが可能なの?!」

と思うことも、集中し感じとり、やることも可能だった。夫も、医師や看護師に混じり、ほら頭が見えてきたよ、もうすぐ全身でるから!と励ましてくれるが

立ち会い出産って妻の頭側に夫がいるものではなかったっけ?

とは脳裏をかすめつつ、2,3回いきむと、次男が産まれた。外界にようこそ。ふとTVを見ると、スタッフロールが流れていて、どうやら陣痛からトータル2時間程度でだったらしい。 

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日本人に刷り込まれてる2時間サスペンスの展開で時間がわかる感覚すげぇ。

その後、へその緒を医師が夫に「お父さん、きります?」「いえ僕はそういうのに感動とかないんで…」「それでは私が切りますね」

私のへその緒はテープカットか

夫が私に、無事産まれたよ、お疲れさま、と声をかけてくれた時にとっさに出た言葉は

「おなかすいた…」

結局自分も頑丈というか、ズレていた。


後日談として。

退院した翌日断水し、風呂やミルクが作れない、という惨事が起きた。

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