差別用語についてのおしゃべり

友里「私、見ての通り外斜視なんだけどさぁ」
真子「せやな。右目いつも変な方見てるよな」
友里「そうそう。小学生のころさ、もうひとり外斜視のヤツおって、斜視のことロンパリって言うことあるじゃん? ロンドンとパリを同時に見てるって話から。だから私、そいつのことロンドンって言って、そいつに自分のことパリって呼ばせようとしてん。ちょっとかっこよく、ロンドとパリスって。でも三日後くらいに『恥ずかしいからやめてくれ』って懇願されてさ」
海「りっちゃんしか笑ってないよ」
珠美「笑うタイミング逃した」
友里「いや別に、笑わせようとしたんじゃなくて。もうほんと理知なんでも笑うな。えっとそれで、でも冷静に考えてみると、日本から見たらロンドンもパリも大体同じような方向にあんだから、斜視の人間は日本に住んでたらロンパリできなくない? って」
海「確かに」
友里「それに、ロンドンに住んでいる人間はロンドンの方向を見ることってできないじゃん? だって、見渡すかぎりロンドンなんだから。パリも同様」
真子「それで?」
友里「だからさ……ごめん、ちょっとオチ考える前に話してた」
珠美「いや無理にオトさんでも……」
海「あのさぁ、ちょっと話変えていい?」
友里「どうぞ」
海「ロンパリって言葉さ、どうやら差別用語らしいんだよね。これどうしてだと思う?」
真子「いきなりディープな話に……」
珠美「えー……でも斜視って言葉自体は差別用語じゃないよね?」
友里「それなぁ。ってかそういう差別用語多いよな。なんで差別用語扱いされてるのか分からん言葉」
真子「やっぱからかってるニュアンスがあるからじゃない?」
海「私もそうだと思う。なんか、別に斜視でもない人がロンパリロンパリって、その人のことからかってる様子は不快だし、そういう言葉を禁止にすれば、そういうことは起こらないからっていう、そういう気遣いなのかなぁって」
友里「分かんねぇんだけどさ。ロンパリって言われてからかわれたこと私一度もないけど、もしそれされたらムカつくし、逆にそいつの見た目の特徴からかってやるんだけど、正直『ブサイク』とか『笑い方きもい』とか『髪型変』とか『なんか匂う』とか、そういうのと『ロンパリ』の何が違うんだろって思う。そんなん、言い方の問題やん」
真子「いやそうだけどさ……言葉自体に、からかってるニュアンスがあるじゃん。ただ目が違うところ向いてるだけなのに、それをロンドンとパリってわざわざ言う必要なくない、っていう」
友里「私は分かりやすくていいと思うけどな。まぁでも、響きが馬鹿っぽいってのは分かるかも。もっとかっこいい響きならいいのかな?」
珠美「響きの問題もあるけど、やっぱり少数の人を指す言葉の感じっていうのは、気を付けた方がいいんじゃないかなぁって思う。人って、自分が大多数だと思うと気が大きくなって、少数の人に当たり強くなる傾向あるし、そういうのを咎める上でも、特定の語を差別用語にするっていうのは意味あると思うな」
海「あー。その見方があるのか。言葉自体をなかったことにするためじゃなくて、その言葉自体を知っておくべきだけど、使ってはならないタブー的なものとして飾っておくことによって、かつて差別があったっていう記憶を残しておく、みたいな」
珠美「うん。だってそうじゃん。私なんかは、友里ちゃんみたいな斜視の人みても少数派だとかなんて一切思わないけど、でもそういう言葉があるんだって言われたら、昔はそれくらいのことで色々言われてた人のいたのかなぁって思うし、それならまぁ、ちょっとは気をつけようかなぁって思う」
友里「それはまぁ確かにそうかもな。歴史が繰り返されるのって、その歴史を軽んじたり忘れたりすることが原因だから、それを言葉にして頭の片隅に置くようにすれば、そういうことにならずに済むって話やな」
珠美「そうそう。そういうこともあるんじゃないかなぁって」
真子「その意見には賛成したいな。確かに、差別用語っていうのは使ってもいいけど、それがかつて差別というか……差別っていう言い方も違うな。迫害だな。迫害の際によく用いられた語であるっていう意識は、あった方がいいだろうな」
海「使うこと自体はいいんだ?」
真子「ブラックジョーク好きだし私。でもそれはあくまで、当たり前のことではなくて、ブラックジョークとして成立するくらい、前提として禁止意識があるってことが大事なんじゃないの?」
珠美「あー確かにそうだね。ブラックジョークって、そういう意味ではすごく健全だよね。それが健全ではないっていう自覚の元語られてるんだから。逆に健全な顔して言われてるジョークの方が、返って危険なのかもしれないね?」
友里「確かにそうかもな。ってかたま、こういう話だと結構ノリノリでついて来れるんだな」
珠美「あー。まぁでも、それはそうじゃない? だってさ、うちらの学校には少ないけど、中学時代とか、そういう言葉平気で言う人いたじゃん? 話題が身近というか」
真子「ガイジとか?」
珠美「その言葉ほんと嫌い」
友里「気分のいい言葉ではないな。つーかそもそも、障害の話については何しても気分悪くなるっていうか、想起されるだけでいやなんだよな」
真子「あれ、斜視って障害じゃなかったっけ?」
友里「病気に分類されること多いけど、重度だと障害扱いされることもあるらしい。でも別に、障害持っているからって、いつも障害者として分類されるのってなんか変じゃない? 背低い人間が、頭の良さとか運動神経とか、そういうところ全部無視されていつもいつもチビ扱いされるのがおかしいのと同じだと私思うな。そりゃ目立つけどさぁ……そこばっか見ようとするのって、結局目立つところしか見えない、精神的に近視眼的な人間であること露呈するだけなんじゃないの?」
海「それは私はそう思う。目立つところだけ見て、そこのことばっかり言う人間ってみんな頭悪いと思うし……なんて言うか、歴史上常に大多数ってそういうところあるよね。見た目とか、分かりやすいところばっかり見つけて、そこだけで人を判断しようとするというか」
珠美「見た目も大事だけど、そこだけで中身とかも勝手に決めつけるのおかしいよね」
真子「うーん。でも障害ってさ、その種類にもよるけど、周りにもその影響が及ぶこと多いからこそ、そう呼ばれてるんじゃないの? 視覚障害とか、聴覚障害とか、車いすとか、そういう人って通常の社会生活を送るのに、他の人の協力が必要不可欠なわけじゃん? だからそういう場合は、分かりやすい部分が必要なのかなぁって思うんだけど。知的障害とかも、結局はその人に合わせて話をしたり、設備整えたりしなくちゃいけないから、区別されてるんだろ? なんかこう、差別が気持ち悪いのは分かるんだけど、でも障害を背の低さとかと同じ扱いにしちゃうのは、ちょっと単純すぎるんじゃないって思う」
友里「あぁ、まぁそうか。確かにお前の言うとおりだ。私は、片方の目が生まれつき悪くてうまく動かんだけだし、もう片方の目がいたって健康かつ人よりもいいくらいだから、日常生活には困らんが……そんなんたまたまだしなぁ。もし両目ともこんなんだったら、確かに何らかの配慮が必要だし、その時は自分の他の個性よりも、実利的な意味でそういう特徴の方を大事にしてほしいかも」
珠美「真子ちゃん人間としてのレベルが高い!」
真子「正直、頭の悪い人間とか、差別的な傾向のある人間とか、そういうところ見て話進めるだけで無意識的に人間レベル下がるから、理知を見よう」
海「りっちゃんはどう思う?」
理知「んん。私はそれについてはノーコメントかな。身近にそういう人いなかったというか……後天的にそうなった人はいたけど、それはその人自身の問題だし、その人自身のやり方で人間関係作ってたから、そういう相手がいないのに属性だけ見てこうすべき、みたいなのは行政とか、広報的な問題だから、その視点で見なくちゃいけなくて……そういう行政とか広報とかの問題においては、道徳とか、知性とか、そういう問題は副次的な要素として扱わなくちゃいけなくて……まぁ何というか、難しいんだよ」
友里「なんかこういう話してると、日本の行政とか広報とかって意外と考えられてるのかもなぁって思う」
海「あれだよね。一般的な話のレベルとの差がすごいのかもしれないね。やっぱりそれ専門でやっている人がいるんだから、そのレベルでことを進めてるんだろうね」
真子「その割に時々馬鹿みたいな言ったりしたりするのはなんでなんだろう」
友里「うーん。実際問題、人って賢いのか? 私たちが今暇つぶしで考えてるくらいのことは、皆考えてるものなのか?」
珠美「考えていて欲しいよね」
海「時々人間って想像をはるかに下回ることあるからね……逆もあるけど」

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