視点を切り替えて考えるということ



視点を切り替えるとはどういうことか

 人はものを考えるうえで、無意識的に「土台」というもののうえで考えています。
 「大人として」「日本人として」というような自分自身のアイデンティティに関する場合もあれば、「常識的に考えて」や「論理的に考えて」や「直感的に捉えて」というような方法的な場合もあります。

 人は無意識的にこれらの土台をそれぞれの場合や場所、相手に合わせて使い分けていますが、それが得意な人もいれば苦手な人もいます。
 相手に合わせることはできても、相手と会話を発展させるために微妙にずらすということができない人はたくさんいます。
 相手に合わせることが苦手で、よく話がかみ合わなくなってしまう人もいるでしょう。

 誰もが無意識的にやっている「視点を切り替えて考える」ということを意識的に分析することは、自分自身や人間の心をより深く理解する助けになるといえるでしょう。


視点を切り替えて考えることのメリット

 視点を切り替えて考えるということは、多角的なものの見方ができるということです。ひとつの面から見て決めつけてしまうということを防ぐ有効な手段でありますし、自分とは違う種類の人と交流するためのもっとも役立つスキルでもあります。

 さらに、他の人があまり使い慣れていない視点を数多く持っていれば、他の人にとっては盲点であるようなアイデアをひらめくきっかけになりますし、それを実行に移すことで社会的な成功につながることもありえます。
 新しいアイデアだけではなく、何か属している組織の中で、何か失敗の種を人よりは早く見つけ、それが大きくなる前に対策を打つことも可能でしょう。

 視点を意識的に切り替えて考えることには、このように数多くのメリットがあります。


視点を切り替えて考える方法

 視点を切り替えるといっても様々な方法がありますが、ここでは私が実際にやっている思考法のひとつを紹介したいと思います。

他者の立場を具体的に定め、その観点からものを見る。

 たとえば私たちは日本人ですが、この世には日本人しかいないわけではありません。ですが「何人でもない人」というのはほとんどおらず、自分を「外国人だ」と思って生きている人は、本当に滅多にいません。つまり、ほとんどの人は自分が「○○(どこかの国)人」であるというアイデンティティをもって生きているわけです。
 つまり「外国人」というような広い括りでは、具体的にそれが誰なのか分からず、ぼんやりとしたまま考えることになってしまいます。ゆえに、具体的に、どのような立場にある人なのか想定して考えてみることが大事なわけです。

 たとえば、アメリカ人の父親と日本人の母親の間に産まれたハーフで、幼少期はアメリカで過ごし、中学から父親の仕事の都合の日本で暮らすことになった友人が実際にいたのですが、「もし彼女なら、この問題についてどのように答えるだろう?」というのを実際に考えてみるわけです。
 意識すべきは、たとえ間違っていても、まずは答えを出してみることです。
 「日本は今オリンピックの観客をどうするか、ということについて意見が割れているが、もし彼女に『アメリカ人はこの問題についてどう思っているだろう?』と尋ねたら、何と答えるだろう」と考えてみるわけです。
 私の考えでは、彼女は「多分それは、考えてる人もいれば考えていない人もいると思う。アメリカ人といっても色んな人がいるからね。私自身としては、オリンピックを見に行けないのは残念だと思う」などと答えるのではないか、と想像します。実際にそれが当たっているかどうかが重要なのではなく、それが「自分以外の人の意見(つまり自分じゃない立場からの見方)」であることが重要なのです。

 他にも、オリンピックのチケットを実際に買った人の意見、オリンピックにそもそも興味のない人の意見。オリンピックどころじゃないくらい困窮している人の意見等も、考慮するに値します。そのようなことを、とりあえず間違っていてもいいから、調べる前に自分で考えて答えを出す。そして、機会があれば実際に調べて答え合わせをします。
 その繰り返しによって、さまざまな視点を日常的に持ち出す癖がつきます。そうすると、会話の中で相手の考えていることや、次にいわんとしていることがより深く理解できますし、どのパターンの考えで生きているかというのも、短い時間で察することができるようになります。


視点を切り替えて考えるうえで気を付けるべきこと

 視点を切り替えて考えることにはたくさんのメリットがありますが、同時に気を付けなくてはいけないこともあります。

視点を切り替えて考えることで起こりうる危険
・自分自身の考えを見失ってしまったり、他人に流されてばかりになってしまったりする。
・反対意見を予め自分で見つけてしまうので、人に自分の意見を言う勇気を失う。
・考えてばかりで実行に移すことを躊躇うようになる。
・どっちつかずの立場ばかりになって、信用を失うことがある。

 これらの危険を回避するには、視点を切り替えて考えることによって得た知見を、総合的に解釈し、人に説明することが有効であると私は思います。

 つまり「この人は、きっとこう思ってる。この人は、その人とは別に、こう思っている。私は、それを考慮したうえで、このように考える」というようなところまで、考え抜くということです。
 最終的に自分の視点に帰ってきて、そこで、たとえ間違っていてもいいから仮の答えを置くことが、視点を上手に切り替えるコツであると、私は思います。


まとめ

 多様性の重要性が説かれているこの時代、多くの視点を理解し、自分の中に取り込むことは、全ての世代に求められていることなのではないでしょうか。
 ただ見たまま考えたことや、人から聞いた話だけでは、追いつけないというのを実感している方も少なくないと思います。

 やはり多角的な視野をもって生きるためには、それを意識的に鍛えることが必要なのではないかと考えています。

 難しい問題について「自分とは違う生き方をするあの人ならどう考えるだろう?」と考え続けることが、人間と社会に対する深い理解に繋がるのではないでしょうか。

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