ある少年の永劫回帰


「もし過去に戻ってやり直すとしたら?」
「もう一度全く同じ人生を歩みたい」

「もしタイムマシンがあったらどこに行きたい?」
「どこにも行きたくない」

 これはある小学生の答えであった。
 もし何も知らない人が見たら「彼はきっと幸せな人生を歩んでいるのだろう」と勘違いするかもしれない。
 しかし現実は、正反対であった。
 彼は人生を苦しんでいた。彼は、こう言いたかったのだ。
「俺は俺のこの人生以上の重荷も、この人生以下の重荷も背負いたくない。俺にはこれが限界で、かつ俺は常に俺の限界まで背負っていなくてはならないのだから」
 一見己の人生を完全に肯定しているように見える彼は、実際のところただただ追い詰められていただけだった。疲れ果てていて、心の底から休息を求めていただけだった。だが、己に休息を許すことを、彼はできなかったのだ。

 そして彼は、死んだ。私にその考えを残して、死んでいった。永劫回帰の別の解釈。暗い側面。

 彼は立派に死んだ。彼が死に切ったことだけは、笑って肯定しなくてはならない。彼はよくやった。彼は間違っていなかった。

 私が生きていなくてはならないのは、私が死んだら彼の人生や在り方を肯定できる人がもういなくなってしまうからなのだ。

 でも本当にそうなのだろうか? いやきっと……それもまた私という多面体の側面のひとつに過ぎないのだろう。
 私は、その複雑性を認められるほどに成長した。
 彼もまた本当は、別の解答や可能性を用意していたはずなのだ……それを己に許せなかっただけで。

 絶望的に嘆き、道化のように笑い、時に皆と混じって享楽に浸るをよしとする。性に溺れ、優越感に酔い、惨めさに喘ぐ。全て私なのだと今は認めることができる。
 どんな嘘にも己の真なる匂いが残っているものだと、私の魂が告げている。

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