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「こちょぐりたい」 山の森ののっぽ杉。その高い枝の上に、ぽつんと少女が座っていた。 この山には熊もいなければ鹿もいない。タヌキすら見かけない。 「けしからんやつめ」 と、続けてよく分からないことを呟くものの、誰もそれに反応しないのでうぬぬと可愛らしい声で唸って黙ってしまった。 だがそのまま黙ったままだと悔しいので数秒もしないうちにひらりと地面に降りる。 まこと落ち着きがない。 着物のおしりをなんとなしに払い、素足でペタペタ歩き始めた。 すると途端に鼻歌を歌い出したり
帰還兵は、手足の一本二本喪っているのが付き物だ。という話をローレンスが聞いたのは、彼の兄が出征して数ヶ月した後のことだった。 何気ない日常会話の一節としてであり、さほどは気にしていなかったものの、人の良い司祭が失言に気付き、その後わざわざ謝りに来たことを覚えている。 兄弟二人で他に家族もなく、まだ年少のローレンスは兄の出征後、村の教会で小間使いのようなことをしながら住まわせてもらっていた身であれば、それになにか思うところなどあるはずもなかった。 「ただいま、ロー」 そ