最近読んだ本の話「幸せスイッチ」

この本 超危険

あなたの価値観さえも壊してしまうような邪悪な罠が詰まった短編集

と、表紙に書いてあった。
書店の棚にあったときには帯に書いてあるように見えたが、実際は表紙の帯で隠れる位置に黒背景で書いてあったので、帯が巻いてあると勘違いしただけだった。

内容としては、「世にも奇妙な物語」を文字起こししたような短編集だった。価値観を変えるとあるが、哲学的な命題をサスペンスホラー仕立てで綴っていくという内容だった。
残念ながら既に通過した命題ばかりだったので私の価値観に影響は無かったが中学二年生くらいの時に読んだら考え方が変わった可能性はある。
私自身は普段意識していないけれど年齢相応の経験や知識(偏見と頑固さ)を持った大人なんだなと再認識できたという意味では良い読書体験だった。



各話の感想

「怨霊」
メリーさんの怪談をコメディ仕立てにした短編
Twitterでは妖怪を萌えキャラにしたり、都市伝説を舌先で言いくるめてアルバイトとして募集したりやりたい放題されているがこの作品はその系譜だろう。古くは落語に「化け物使い」なんて噺もあるから日本人はこの手の滑稽話が大好きだ。私も好きだ。
徹底してコメディに振っている内容で笑わせようとしているのが伝わってくる。へんてこりんな地名を連打する所はちょっとツボに入った。
巻頭の一本にこれを持ってきているのがビジネスで言うところの「フットインザドア」というか、読者の警戒を解こうとしているのが伝わってくる。題材に怪物を持ってきているからホラーの要件を満たしつつコメディで心の内側に入ろうとする。やべー怪異みたいな動きだ。

「勝ち組人生」
幸福とは何か?という問いかけを行いつつ連鎖する呪縛について扱った短編。主人公と相手の二人の女性をメインに据えている。主人公が奇人であることを提示しながらも、相手の方を愚かな存在としてしつこく描写することで主人公へ感情移入させるテクニックは良い。
大落ちへのステップを踏んで不穏な空気を出しつつラストに向かうのも王道という感じだった。

「どっちが大事」
平成初期から夫婦喧嘩の代名詞とも呼べる問いかけを極端にしたやーつ。
この話から一番「世にも奇妙な物語」風味を感じ取った。俳優を選べばめちゃめちゃ後味悪く作れそう。女性のヒステリーを批判しているような内容でありながら、作者自身がヒステリーに対してお母さんヒス構文で迎え撃つような内容で全然すっきりない。
そして、この話を読んでる途中でとても残念な気持ちになった。たぶん、この作者はドラマの文字起こしをしている。

「診断」
モンスタークレーマーと救急隊員の話。
正直に白状するが、前段のどっちが大事で疲れてきていたので大筋を読んで細部を読み飛ばした。

「幸せスイッチ」
表題作、前半は主人公が如何に不幸で可哀想なのかが描写されるが、特に意味はないので割愛、読まなくても良い。
幸せスイッチとは脳みそに電極を付けて幸福感を得る物理的なデバイスでこれを付けた主人公は上手く使って人生を立て直そうとするも、罠に嵌って底の底まで転落するという話だった。
現代風刺が効いているが、後半だけを2ページで綺麗に収めた話を星新一で読んだ覚えがあった。
スイッチが登場するまでもキツかったが、スイッチが登場した段階で更に辛くなった。もっと斬新な話であって欲しかった。

「哲学的ゾンビもしくは~」
タイトル通り、哲学的ゾンビと他人の意識の存在証明に関する話。
作者的にこの命題を聞いてとてもショックだったのかな、という気持ちは伝わってきたけど作中で説明しすぎていて全然怖くなかった。事前に知ってたし。ホラーはもっと意味不明な方が怖くていいと思うけどな、、、説明しすぎ。


全体の感想

上にも書いたが、中学生くらいの時に読んだら衝撃を受けたかもしれない。
でも、ホラーとしては中途半端で人怖ってやつなのかなという感じ。
ドラマの文字起こしという表現をしたが、全体的に会話劇に終始していて情景描写が足りていない印象を受けた。
小説をドラマ化する時は尺に合わせて描写を省いたり、俳優の演技で補完したり、背景の看板に忍ばせたり、BGMに載せて情報を視聴者に伝えるもので
反対に映像を小説にする時には背景や表情、服装の乱れから主役のセリフの裏で流れる環境音まで察知して描写しなければ意味がないと思うのだが、この作品はドラマを見た作者がセリフと記憶に残った映像描写を書き起こしたような内容だ。

正直言って人に勧められるレベルじゃないなと思った。

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