ながらスマホを撲滅しよう

自宅の最寄駅での話。

その駅は、地上に改札があり、線路が高架にあるため、階段かエスカレーター、またはエレベーターを使ってホームへ上がる構造となっている。ワシが利用する北口は、上り方面行きのホームと下り方面行きのホームを往来するエスカレーターがそれぞれ一台ずつしかないため、ホームへ上る運転や改札へ下る運転は時間帯で区切られている。

おそらく、利用者数が多い時間を考慮してそのような運転をしているのだろうが、ホームへ上る客はひっきりなしにいるのに対し、電車が到着したときにしか下る客がいないため、効率面や利用者の負担を考えると、エスカレーターは上り専用にした方がいいのではないか、などと思いながら毎日通勤している。

そんなある日、その駅で、帰宅の際に下り階段を降りていると、ワシの背中に人が落ちてきた。正確には、階段の踏面を踏み外した人が体当たりしてきたのだ。振り向くと若い女。スマホを片手に、耳にイヤホンをぶっ刺したまま引き攣った顔で「すみません」「ごめんなさい」を連呼している。ワシの顔が怖いからって、そんなに動揺することないだろ。

客の多い時間帯だし、ワシは公開説教するほどの老害気質を持ち合わせてないと自負しているので、片手を挙げて済ませてやったが、まあ原因は明らかに「歩きスマホ」だろうなとは思った。平坦な場所での歩きスマホだって充分危険なのに、下り階段でもスマホから目が離せないとは、もう医者に診てもらうレベルの病気なのではないか。

そんなに前の出来事ではなかった気がするが、歩きスマホをしていた女子大生が、踏切に入ったことに気づかず、電車に轢かれて亡くなったという痛ましい事故があった。自業自得といえばそれまでだが、そういう危険な目に遭うんだという自覚がないのは「困ったものだ」を通り越して、かなり深刻だ。

毎日、多くの「ながらスマホ」の人を見かけるが、それによるトラブルや事故は、ワシらが思っているより遥かに多いだろう。特に事故の場合は「スマホを弄ってました」などと正直に言う人も少ないだろうから、潜在的な数は途方もないことになるのではないか。

実際、ワシが歩きスマホのトラブルに遭ったのは、これが初めてではない。歩きスマホをしながらこちらに向かってくる若い男に気づき、ぶつからないようにワシの方が気を遣って避けてやったのに、その男はそのままワシの避ける方に歩いてきて肩をぶつけたのだ。ワシも一瞬カッとなり、すれ違いざまに(かなり大きめの)舌打ちをしたら、その若い男が「あ?」と叫びながらこちらを振り向いた様子が窺えたので、ワシも振り向いたら、謝りもせず何事もなかったかのように逃げてしまった。ワシの顔が怖いからって、それは無礼すぎるだろ。

駅での出来事も、たまたま身体が重くて頑丈なワシが相手だったからよかったものの、もし誰もいなかったら、階段を踏み外したまま一気に落下して自分が大怪我をしていたかも知れないし、もし下を歩いているのが身体の軽い高齢者や子どもだったら、と考えると怖くてスマホを弄りながら階段を下るなんてことは出来ないはずだ。

事故には「避けられない事故」と「避けられる事故」がある。ながらスマホの事故は、スマホをポケットにしまうだけで簡単に防ぐことが出来る「絶対に避けられる事故」だ。

心当たりがあるという方がおられたら、本当に気をつけていただきたい。自分が泣かないように、周りを泣かせないように。