結び目理論の未解決問題10

結び目理論の問題は、分類前と後で大きく二つに分かれる。

1.同値問題: 与えられた二つの結び目が同値かどうかの判定。もし同値ならば、どのような変形で移り合うか。
2.構造問題: 結び目全体からなる集合にある構造を与え、それを調べる。

結び目理論において、知られている主な予想は以下のものがある。

低次元トポロジーに関する問題集。以下、Kirby Problemとして参照する。

1. Additivity problem

一般に、結び目の連結和に関して不変量(交点数や解消数等)がどう振る舞うか(加法性等)。
Bridge numberについては[Schubert 1954, Schultens 2003]によって、Braid indexについては[Birman--Menasco 1990]によって、加法的であることが示されている。

一部、結び目の交点数の加法性について書かれています。Kirby Problem 1.65参照。

結び目解消数について。Kirby Problem 1.69 (B)参照。

Conjecture 2.5. a(K_1#K_2) = a(K_1) + a(K_2)が成り立つか?

Problem 1.8. trunk(K1#K2) = max{trunk(K1), trunk(K2)}が成り立つか?

Derek Davies and Alexander Zupanによって肯定的に解かれている。

2. Nakanishi conjecture

任意の非自明な結び目に対して、結び目解消数を下げる交点を含む最小交点の正則表示が存在する。

Mark Brittenham, Susan Hermillerによって、反例の存在が示されている。

3. Lin's nugatory crossing conjecture

結び目Kを交差交換して再びKが得られたならば、その交差は無効なものに限る。
Kirby Problem 1.58を参照。

fibered knotに関して、Lin's nugatory crossing conjectureは正しい

4. Cabling conjecture

S^3内の結び目に沿ったデーン手術で、可約な多様体が得られたならば、その結び目はケーブル結び目に限る。Kirby Problem 1.79を参照。

Hempel distanceが3以下のbridge sphereを持つknotについて、Cabling conjectureは正しい。

5. Berge conjecture

S^3内の結び目に沿ったデーン手術で、レンズ空間が得られたならば、その結び目はバーギ結び目に限る。

6. Fox's slice-ribbon conjecture

スライス結び目はリボン結び目である。

2-bridge knotについて解決された。

3-stranded pretzel knotsの無限列について解決された。

Montesinos knotsの大きな族について解決された。

7. Kashaev's volume conjecture

Kashaev不変量(Colored Jones多項式)と結び目補空間の双曲体積の間の関係式に関する予想。

8. Garoufalidis's Jones Slope conjecture

任意の結び目に関して、ジョーンズスロープの2倍は常に境界スロープである。

9. Lopez conjecture

スモールな3次元多様体はスモールな結び目を含む。

Lopez conjectureは、閉3次元多様体についてであるが、これを境界付き3次元多様体に拡張すると、次の予想が考えられる。

Small knot conjecture. スモールな結び目外部には、スモールな結び目が存在する。

10. Neuwirth conjecture

任意の非自明な結び目Kに対して、Kを含む閉曲面Fで、F∩E(K)が連結かつ本質的であるものが存在する。

uniformly twisted knotに関して、Neuwirth conjectureが正しいことが示されている。

注釈

これらは、連結和・交差交換など結び目間の変形で状態がどのように変わるか(1, 2, 3)、デーン手術や分岐被覆で結び目と3次元多様体がどのように対応するか(4, 5)、ジョーンズ多項式など代数的不変量がどれだけ幾何的な情報を含んでいるか(7, 8)、圧縮不可能曲面や境界スロープなど位相的な性質の存在について(9, 10)、などに分類される。

11. Rank versus Genus Conjecture

3次元多様体Mの基本群の階数(生成元の最小数)をr(M)とし、ヒーガード種数(二つのハンドル体に分けたときの最小種数)をg(M)とする。
このとき、r(M)≦g(M)が明らかに成り立つが、Waldhausenは等号が成り立つか?、即ち、r(M)=g(M)か?という問題を提起した。
この問題は、r(M)=0のとき、ポアンカレ予想である。
Boileau--Zieschangは、ザイフェルトファイバー空間Mで、r(M) = 2かつg(M) = 3を満たすものを見付けた。Schultens--Weidmannは、グラフ多様体Mで、g(M) − r(M) が任意に大きく取れるものを見付けた。

この論文で、g(M) − r(M) が任意に大きい双曲多様体が初めて構成された。
http://arxiv.org/abs/1106.6302 でも入手可能。

Waldhausenの問題は、結び目外部について未解決である。
即ち、結び目Kの外部E(K)について、r(E(K))=g(E(K))が成り立つか?という問題である。
ここで、Kのトンネル数をt(K)とすると、t(K)+1=g(E(K))である。

この問題に関連して、Cappell--Shanesonは、結び目の橋数と、結び目群のメリディアンによる生成元の最小数は等しいか?という問題を提起している。



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