一首評:藤原建一「2022年3月5日 日経歌壇」掲載歌
場面の選択自体が作中主体の不安の感情の表現に強く結びついた短歌だと思う。
歌のつくりとしては、句またがりを駆使して、普通の語りのようなフレーズが短歌の中に閉じ込められている。四句の途中で意味は切れ、映像としても少しずつ俯瞰の絵へと切り替わっていくようだ。
さて、この歌を私が読んだ時に唸ったのは、「連れ帰る」という動詞、あるいは場面の選択だ。
ここで「連れていく」ではなく「連れ帰る」を選択した作者はほんとうに鋭いと思うのだ。
救急診療へと家族を連れていかなければいけない