見出し画像

【9/11の分断】フォーリングマン20年の孤独

この写真(見出し画像)を覚えていますか? 9.11アメリカ同時多発テロ事件の翌日、『The New York Times』をはじめ世界中のマスメディアに掲載された写真です。

しかし、この写真「The Falling Man」(フォーリングマン)はその後何年もの間、存在を消されることになります。新聞やTVでの露出が自主規制され、インターネットでも検索で出ないようにされていました。

日本でも東日本大震災で津波に流される人の映像やこのアメリカ同時多発テロでハイジャックされた旅客機がワールドトレードセンター(WTC)に突っ込む映像が自主規制で放送されなくなっているのと同じです。お蔭で今ではワールドトレードセンタービルにハイジャックされた旅客機が突っ込んだことを知らない人々が出現しはじめています。

画像1

アメリカにおいては9.11アメリカ同時多発テロ事件でワールドトレードセンタービルの窓から人々が飛び降りる写真や映像が自主規制の対象になりました。

「In the most photographed and videotaped day in the history of the world, the images of people jumping were the only images that became, by consensus, taboo—the only images from which Americans were proud to avert their eyes.」(Tom Junod『Esquire』「The Falling Man」)

ただし、このタブーが日本と大きく異なるのは死者の記憶に対する侮辱であったり、ショッキングでトラウマになるというだけでなく、宗教的な非難が大きかったという点です。この大惨事であっても飛び降りは「自殺」であり、アメリカで多くの人が信じる宗教では「自殺」は許されないという非難でした。

ニューヨーク市監察医務院の公式見解でも「フォーリングマン」、つまりワールドトレードセンタービルから飛び降りた人々は存在しないとされています。しかし、写真や映像には多くの人々がビルの窓からダイブする姿がとらえられています。

私は個人的にこれらは忘れるべきではない人類の記憶であり、貴重な記録を自主規制などによって隠匿することは人類のプラスにならない自滅行為だと見ています。これらは現実であり、人類は現実を直視して学ばなければなりません。

幸いなことにドキュメンタリー映画やジャーナリズムなどによって「フォーリングマン」に対する自主規制が見直されつつあります。そこで、9.11アメリカ同時多発テロ事件から20年の節目を機に本稿では「フォーリングマン」を取り上げることにします。(敬称などは略します。)

The Falling Man

「フォーリングマン」の写真はAP通信のカメラマンRichard Drewによって撮影されました。9.11アメリカ同時多発テロ事件でハイジャックされた旅客機がワールドトレードセンター北棟(110階建て)の93から99階に突っ込んだ後、地上への避難経路を断たれ、火災による業火で天井が落ち床が崩れはじめた高層階の人々が、炎による灼熱と煙から逃れるために窓から飛び降りたと考えられています。その中のひとりが「フォーリングマン」です。

映像で確認できるだけで50人が飛び降り

画像2

ニューヨーク市監察医務院の公式見解では飛び降りた人は存在しないとされていますが、『The New York Times』が映像で確認しただけでも50人がワールドトレードセンタービルの窓から飛び降りています。

さらに、『USA Today』は映像に加えて目撃者の証言や法医学的な証拠をもとに少なくとも200人が飛び降りたと結論付けました。

9.11アメリカ同時多発テロ事件でワールドトレードセンタービルの窓から飛び降りた人々(the jumpers)、「フォーリングマン」「タンブリングウーマン」(tumbling woman)は間違いなく実在するのです。

フォーリングマンは誰だったのか?

「フォーリングマン」は誰だったのか? 有力候補としてふたりの人物があがっていました。当初候補とされたのはNorberto Hernandezでしたが、最終的に最有力となったのはJonathan Eric Brileyです。しかし、どちらの家族も認めていません。認める訳にはいかない社会的事情があるのです。

「自殺」というレッテル

上述した通り、9.11アメリカ同時多発テロ事件による大惨事であったとしても飛び降りは「自殺」であり、アメリカで多くの人が信じる宗教で「自殺」はタブーとされているからです。

もちろん、「フォーリングマン」に同情的な意見もありますが、「家族への愛を裏切り自分が苦痛から解放されるために自殺した」という大バッシングが存在するのが現実なのです。分断は常にそこにあるのです。

「死」しかない究極の選択

地上への退路を断たれ、火災で天井が落ち床が崩れはじめたワールドトレードセンタービルの高層階で、肺を焼かれ、煙に巻かれて気を失ってでもビルが崩れて死ぬ最期の瞬間まで生を諦めるべきではないという考え方は間違っていないと思います。

もちろん、各宗教宗派による価値観も尊重したいと思っています。

ですが、タイムリミットまでの救助の望みがなく、業火と煙に窓まで追い詰められた状況で、「死」しかない究極の選択、死に方の選択肢しかない究極の選択の中から「窓から飛び立つ」という選択を選んだ人を「自殺」と責めることには個人的に承服しかねるのです。

飛び降りた人は止まっている

ゼノンのパラドックス「飛んでいる矢は止まっている」ではありませんが、「フォーリングマン」は20年間空中にとどまったまま宙ぶらりんの状態です。

「But maybe he didn't jump from the window as a betrayal of love or because he lost hope. Maybe he jumped to fulfill the terms of a miracle. Maybe he jumped to come home to his family.」(Tom Junod『Esquire』「The Falling Man」)

いや、Tom Junodが言うように「彼が窓から飛び降りたのは、愛を裏切ったからでも、希望を失ったからでもないかもしれない。奇跡の条件を満たすために飛び降りたのかもしれない。家族のもとに帰るために飛び降りたのかもしれない」ということなら、「フォーリングマン」は今でも落下し続けていると言うべきかもしれません。

「フォーリングマン」は神の腕に抱かれるために、つまり「自殺」するために飛び降りた訳ではないのです。もしあるとしたら、彼は家族のもとに帰るために飛び降りたのだと思われて仕方ないのです。

20年の孤独

9.11アメリカ同時多発テロ事件から20年が経過しました。Richard Drewが使用するカメラもNikonからSonyにかわりました。それでも家族が彼の行為を少なくとも公に認めることはありません。20年間「フォーリングマン」の行為は遺族の腕に包まれることもなく現在も落下し続けているのです。

あなたならどうしますか?

さて、究極の選択です。「フォーリングマン」と同じ状況に追い込まれたとしたら、あなたはどうしますか?

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?