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がん体験備忘録 ♯26 肝臓がんからの鬱⑥~支えてくれた人のこと Part.3

最後は、勤務校の校長先生のこと。

注) 本来であれば「…してくださる」と敬語を使うべきところだが、その連発で文章がうるさくなるので、敢えて常体でいきます。おそらくこれを読んでくださる校長先生、失礼お許しくださいm(__)m

甲状腺の手術後、自問自答していた。

 息も絶え絶えの話し声、しかも全く歌えない自分が、学校の音楽授業を担ってよいのか

しかもこの時は、「歌は無理」と言われており、歌えるようになる見通しは全く立っていなかった。

 ところが、「声が出なくなるかもしれない」と密かに涙ながらに心配してくれた校長先生☟は、私のそんな心配はどこ吹く風。


 「その時に考えればよい」

と、一向に意に介さない風だった。なんという太っ腹!

 そんな折、今度は

 前触れなく突然の入院→5ヶ月の休職→4ヶ月空けて再び3ヶ月の休職

ときたもんだ。再び多大なご迷惑をおかけした。

 昨今報道でも盛んに言われている通り、学校はどこも人員不足。私のところは欠員こそないものの、ギリギリの状態で回していることには変わりない。どこの職場でもそうだと思うが、一人減ると、その分他の方の負担が増える。

1 肝臓がん発覚の時


 肝臓がんと診断され、二学期いっぱい休職したい旨をLINEで連絡した時

「全て了解しました。仕事のことは心配せず、療養に専念してください」

と短く返事が来た。

「肝臓がん」と聞いて、びっくりしたと思う。詳細を一切尋ねず余計な感情も挟まず、「了解」の一言で全てを引き受けるこの校長先生の肝の座り方には敬服する。

 学校の仕事は自分の授業だけではない。学校運営に関わる事務仕事も多く担っていたが、休職中には仕事内容に関する問い合わせは一切なかった。(まあ、自分がいなくても組織は回るということだが…)

 こちらは命の存続を突き付けられている状況だ。自分のことで精一杯。仕事の事を聞かずにいてくれたのは本当にありがたかった。

 一方で、仕事以外の学校の様子は、おもしろおかしく知らせてくれた。

例えば…

(私が「7kg痩せた」と言ったので)
「高学年(教員)の男性1人、女性2人から、お肉提供の申し出がありました」

とか。

教員採用試験を受けた若手産休代替君の、おもしろ面接風景

とか。

 手術直後でお腹が猛烈痛いのに笑っちゃって、ますますお腹が痛くて大変だった(^_^*)

 この夏、ちょうど翌年からの役職についての書類を出すことになっていた(平たく言えば昇任。) しかし、こちらは突然「がん」という大きな病気が発覚し、この先、役職に見合う仕事を全うできるのか、全く不透明な状況だ。私が校長の立場だったら、そんな先の分からない職員の昇任なんて、取り消すところだと思う。

 にも拘わらずこの校長先生は、当たり前のように書類を両親に預け、病院まで届けてくれた。

2 退院後

 退院後は、自宅療養しているときも折に触れて学校の風景を伝えてくれたり、都合の良い時のリハビリ出勤を提案してくれたりした。

 痛みがおさまり、街をどうにか普通に歩けるようになったのが10月半ば。復職に備えて午後から出勤して、事務仕事や研究授業準備の手伝いをした。復職したらいきなりフルで働くことになるので、このリハビリはありがたかった。

 学校では大げさにすることなく、「役職が変わっても、これまで通りでよい」「無理しないように」と折に触れて言ってくれた。

3 鬱の時

#24で書いたような状況の時

 同僚には何も話せなかったが、春休みにかなり辛くなった私は校長室に思わず飛び込んだ。

「私、鬱になりそうです」

確か、4月2日だったと思う。校長先生は

「話してくれて、ありがとう」

と一言おっしゃった。あれこれ聞かれると思っていた私は、心底ほっとした。

 心療内科に予約なしで飛び込んだのはその日の退勤後。Lineで、心療内科の翌日の予約を取ったこと、「話してくれてありがとう」と言われホッとしたことをお伝えすると、「気負う必要はない、思いつめないように」というようなことを短く温かく返してくれた。

 4月下旬、いよいよキツくなり、休むことが視野に入ってきたころは

「Musiklehrerinさんが一番楽なようにしていいから」

と言ってくれた。

 がんの手術後はあれこれ学校のことを知らせてくれたが、鬱で休んでいるときはそっとしておいてくれた。これもありがたかった。

 7月、すっかり元気になり復職した時は、大袈裟に騒ぎ立てることもなく、当たり前のように、何もなかったかのように迎え入れてくれた。

4  「待つ」 「信じる」「思いやる」

 共に働いたのは6年間。甲状腺がんから始まり肝臓がん、鬱からあけ、声が復活するまで3年あまり。感謝と尊敬の念は尽きないが、それはこの三つに集約される。
 あれこれ深く詮索されたこともなければ、判断を迫られたこともない。自分から話したことはあっても、問われたことはなかった。ただただ私の状況を引き受け、待ってくれた。そして、言葉は少なくても、いつも私の心情を思いやってくれていた。

凛として、揺るぎない。そして、限りなく優しい。

 私をささえてくれた上司は、こんな人です。

♯尊敬する上司
♯がん体験記
♯鬱








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