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名曲144 「たんぽぽ」【芹洋子】

ーー儚く咲く花こそ最も美しいものであるーー

【たんぽぽ】

小学生のころ、なぜか印象に残った曲というのは各々あるのではないか。今回は頭の片隅に残り続けている、まさしくたんぽぽのような存在の曲を取り上げる。

たんぽぽは教科書に載っていた。確か1ページ目だったか。新学期が始まって間もない時期だった記憶がある。春真っ盛り。当時はさくらソングがブームになってきていて、春といえばさくら、サクラ、桜だった。

それと比べるとたんぽぽは地味だった。桜は咲き始め、満開、散り際のすべてが画になるのだが、たんぽぽは綿毛で空に飛んでいくだけの一発屋。うーん、どこかいかにも学校で習うかのようなダサさがあった。

当時のクラスの印象はどうだったのだろうか。この曲について「いい曲」という評価は聞いたことがなかった。真面目な女子はしっかり歌い、男子はふざけたり歌わなかったり。

私はいい曲だと思った。でもそれを口にするのは恥ずかしかった。当時は学校の歌を好きになることがダサいというか、J-POP至上主義の中だったのでカッコ悪いと思ったのだ。女子がいい曲というならまだしも、男子がそういうのは許されなかった。

授業でこの曲が歌われると気分が高まった。当時、私の通っていた小学校の音楽の授業は緩く、先生が「今日はこの曲を歌いましょう」という提案で歌う曲が決まっていた。

1ページ目だったこともあり、この曲が歌われていた期間は短かった。やがて春が去り夏の兆しが見え始めたころでたんぽぽは歌われなくなっていった。

惜しんだが、それを隠してなすがままに与えられた曲を歌っていった。

{雪の下の 故郷の夜 冷たい風と 土の中で 青い空を 夢に見ながら 野原に咲いた 花だから}

{どんな花よりたんぽぽの 花をあなたに 贈りましょう どんな花よりたんぽぽの 花をあなたに 贈りましょう}

すまなかったたんぽぽ。あのときは別れを言わずに去っていった。何年越しだろうか、この曲と向き合えたのは。

空を見上げれば彼女は優しく許してくれる気がするのである。風に任せてゆらゆらと。

【今日の名歌詞】

青い空を 夢に見ながら 野原に咲いた 花だから




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